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2-26 領主様

 シャロが慎重に受け答えをするのを、僕らは黙って見守っていた。

 領主はもっともだという風に(うなず)く。


「いいだろう。この場でお前たちを解放する。監視もつけない。疲れたであろうから、今夜は休むといい。望むなら、そのままこの街を去ってもいい。我らの手の届かない所まで逃れるのは、お前たちなら簡単だろう。……今回の暴れ牛退治の報酬も出そう」


 領主は近くにいた侍従らしき男に命じて、布製の袋を受け取った。

 これを僕たちに手渡そうとしたけど、接近することに警戒したこちらの様子を見て、諦めたように投げて渡した。


「金貨がたくさん。二十枚くらい? 確かに報酬としては十分だろうけど……」


 拾い上げたリーンが僕たちに告げた。


 報酬って名目だけど、買収とも言えるかもしれない。

 あるいは街の施政における重要人物たる司政官の、助命のための賄賂とか。


「これを持って街から出るのならそれも良し。もし、我らの助けになろうという気持ちがわずかでもあるなら……あるいはさらなる報酬を求めるなら、城に私を訪ねに来てほしい。今回の牛の怪物の件について、協力を求めたい」


 牛の怪物と言った。単なる暴れ牛の集団ではなく。


 この領主も、今夜の騒動の裏にまともではない存在が隠れていることを察しているのだろう。

 そして、僕たちがそれに詳しいと見ている。


 推測は当たりだ。だから協力を欲しがっている。


「考えておいてくれ。君たちの安全は保証する。……では皆、撤収だ」


 最後のは兵士たちへの命令。

 街の最高権力者からの命令には逆らえず、兵士たちは城の方へ隊列を組んで歩いて行ってしまう。


「ねえ! こいつはどうすればいいの!?」


 僕はまだ司政官に剣を突きつけたままだ。なのに彼を置いて、兵士はさっさと行ってしまう。


 案外、彼は兵士からはあまり尊敬されない態度を、普段から取っていたのかも。


 街の権力者やお金持ちとばかり繋がりをもち、雇用されている兵士や職員にはおざなりな対応をしていたとか。単なる予想だけど。


「そこに放っておけ。後で人をやって回収する。殺すなよ? 殺されてはさすがにまずい」


 領主は振り返りもせずに言った。


 そっか。殺しちゃ駄目か。


「一発ずつ蹴るぐらいならいいよね? じゃあ、わたしから」

「ヒカリ?」


 兵士の撤収を見て、危険は去ったとみて変身を解いたらしい。


 ヒカリは司政官の横に立つと、脇腹のあたりを思いっきり蹴った。

 もし魔法少女の状態で蹴ってたら、それだけで確実にこの男を殺せてただろう。そう考えれば手加減してると言える。


「そうですね。殺すなとは言ってましたが、痛めつけるなとは言ってませんし。本当に心配なら人を残すでしょうし」


 シャロの言うことも一理ある。

 司政官の腕を踏みつけ、グリグリと地面にこすりつけながら言うから、ちょっと説得力に欠けるけど。


 けど、この男が僕たちを陥れようとしたのも事実。僕だって怒っている。

 もはや抵抗する気力すら失った司政官の腹を思いっきり踏みつけた。




 多少の気が晴れたところで、次はどうすべきかという問題に突き当たる。


 領主の言ったことが本当として、こんな街から出ていくのはひとつの手だ。

 けど、それは少し釈然としない終わり方。


 フレアのこともある。謎の人物に攫われたまま放っておくわけにはいかない。


「あー。そういえばあたしたち、武器を取り上げられたままだったわ……」


 リーンが思い出したように声を上げた。

 さっき捕まってたけど、その時に装備を奪われたようだ。ライラも、そういえば弓を持っていない。


「この金貨はその弁済の意味もあるかもしれませんけど、やっぱり使い慣れた装備がいいですよね。もし捨ててないなら、返してもらいましょう」

「シャロは、りょうしゅさまのところにいくの、さんせい?」

「ええ。行ってもいいと思いますよ。用心は最大限やりますけど。他の皆さんはどうですか?」

「あたしはギルに従う」

「リーンに同じ」

「僕が……」


 最終的な意思決定は僕の仕事。まあいいんだけど。


「わかった。明日、お城に行こう。向こうの出方にもよるけど、ブレイズの件はなんとかしなきゃいけない」


 それから、誘拐されている現状では早めに動いた方がいいというのも思い至った。

 さすがに今から僕たちで動くのは無理がある。散々戦って疲れたし、夜もかなり更けている。休まなきゃいけない。


 よし。倒れてるこの男に伝言を頼もう。もしかしたらそこから領主に話が伝わって、城が大急ぎで対応してくれるかもしれない。

 とりあえず、ブレイズの居場所を知る必要があるわけで、この手の人探しは人員を動員できる城の方が得意なはず。


「あなたが気にしている、人の顔を焼く魔法少女の正体ですけど、バレンシア家のフレアさんです。そして彼女は何者かに誘拐されました」


 司政官の耳元でそうささやく。

 聞こえているのは間違いないらしく、彼は目を見開いた。


「領主様に、早めに探すよう伝えた方がいいと思います。あなた方は兵を動員しましたけど、旅の冒険者にかまけて、お金持ちのお嬢様が誘拐されるのをみすみす逃した」


 この男の政治家としての生命は、もう終わったも同然だろう。

 だけど彼は生粋の権力者。己の間違いをこう言われれば、なんとかしなければと考えるはず。


「間違いなく領主様に伝えてくださいね? もし言わなかったのであれば、その時は本気であなたを殺します」


 これだけ脅せば十分なはず。後は回収しに来るという人に任せよう。

 誘拐した覆面の人物の意図はわからないけど、殺すわけでもなくブレイズを気絶させて運んでいった以上、なんらかの用事があったのだろう。すぐに危害を加えることはないと思う。


「よし、宿を探しましょうか。みんな眠いでしょ? 一応、闇討ちの危険を考えて交代で眠ることになるけど」

「野宿みたいなものだね……街の中でそんなことするなんて」


 でも仕方ない。


 まだ日が昇る時間には遠いと思うけど、かなりの夜ふかしをしてしまった。

 昼夜逆転生活が続きそうだ。早いところ、普通に夜に寝て昼に起きる生活に戻りたいな。


 ブレイズは大丈夫だろうかと、一応は心配する。ヒカリはまだ、あの子のことを見捨ててはおけないって様子だし。

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