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魔法少女が異世界にやってきました!  作者: そら・そらら
最終章 同盟の最後

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15-13 強い人たち

「大丈夫です。僕たちは敵じゃありません。心配することは何もないです」


 語りかけ続けると、理解してくれたのだろう。彼女は床にうずくまったまま、涙を流し始めまた。


「ギル。これ……赤ちゃん」


 家の奥には、籠の中で気持ち良さそうに眠っている赤ん坊がいた。この子を守るために必死だったのか。


「この子の父親はどこ?」

「……狼に食べられたのかもね。奥さんと赤ちゃんを守るために、ひとり家から出て戦った」


 家族だけじゃなく、他の村人も守らないといけないだろう。共同体の一員として当然の責務。

 王都での戦いに駆り出された方なら、少しだけ救いはあるかな。


「男だから戦いに出るなんて、嫌な話だねー」

「家族を守るために、確実に死ぬような戦いに自ら飛び込んだんだよ」

「うん。それは立派だし尊敬する。他にも同じ家はあるよね。探しに行こう。鍵を開けるのは任せて」


 壊すの間違いだろうけど、それを言ったら破壊神がどうとかでまた嘆きそうだ。


 ヒカリの予想通り、似たような家はいくつかあった。他のみんなも、同様に若い女や子供の生存者を見つけていた。

 その数、二十人ほど。


「どうしよう」


 村にある寂れた宿に生存者を集めたのはいいけれど、これからどうするべきかは悩むところ。

 数人なら、馬車に乗ってもらって街まで連れていき保護をお願いすることもできる。けど、この数では。


「とりあえず、狼避けの香料は作りました。生存者にも作り方を教えます。あとはこの宿屋に残った食料をできるだけ運び込んで、事態が終わるまで立て籠もってもらうしか……」


 シャロも、それ以外は思いつかないらしい。仕方ないか。


 僕から、生存者たちに事情を説明した。

 何らかの問題が起こって、怪物たちが解き放たれたことや、今回の狼の襲撃が最後ではないこと。


 僕たちはここを出て根本的な原因に対処するつもりだけど、どれくらいかかるか不明なことも話した。


 生存者は女子供ばかり。また恐ろしい襲撃がありえることに、みんな恐怖に染まった表情を見せた。

 けれど、だから生存を諦めるわけにはいかない。女たちはみんな母親。子を生き延びさせなければという、強い意志を持っていた。


「わかりました。生きるために、何をすればいいですか」


 強いなあ。これが親なんだ。


 子供たちは幸せだ。あの頃の僕と比べても、ずっと。


 明日の朝、可能な限り香料の材料と食料を集めて、それから宿屋に籠もる。出入り口は机や椅子などで塞ぐ。そして、街から兵士が助けに来るのを待つ。

 それが最善の方法。彼女たちは、粛々と受け止めた。そして翌朝、日が昇ると同時に起きた彼女たちは、ほとんど休むことなく働いた。


「無力な人たちの意地だね」

「え?」


 狼を警戒しながら村の敷地の周りに香料を振りまいていると、ヒカリが女たちの姿を見ながら話しかけてきた。


「あの人たち、無力じゃん。実際に狼に襲われたらひとたまりもない。けど生きようとしてる。これはもう、意地なんだよ」


 ヒカリは、直後に考え直す仕草を見せた。


「意地って言葉は相応しくないかな。なんと言えばいいかわからないけど、このかっこよさを表すにはどう言えばいいのかな。……無力だけど強い、かっこよさ」

「無力だけど強い。いい言葉だね。あの人たちにぴったりだ」

「でしょ? 強いわたしたちとは違う格好良さがあるんだよねー」

「でもヒカリも、同じだと思うよ」

「え? なんで?」

「ヒカリは魔法少女の力が無くても、敵と戦うのを諦めなかった」


 スキュラに捕らわれフローティアに迫られた時、ヒカリは魔法少女の力を失った無力な少女だった。けど、一太刀浴びせるのに成功した。戦う意志を見せた。

 ああそうか。僕たちは魔法少女の力が無ければ、他の大勢と同じ無力な存在。


 けど、なんの因果か力を手に入れた。


「さっきも話したけどさ、僕たちが戦う理由って、魔法少女だからでいいんじゃないかな」


 無意識にダークネスのブレスレットに触れながら、ヒカリに考えを話す。


「なるほどねー。うん、いいと思うよ。魔法少女だから戦う。それで十分だよね!」



 その日の昼には、生存者たちは立てこもりの準備を終えていた。不安はあるが、なんとしても生き延びて子供たちを守ろうとする意志があった。


「では、僕たちは先を急ぎます。幸運を」


 幸運に頼り神に祈るしかない状況。それでも強き者たちは、僕たちを気丈に見送ってくれた。



 この村を出れば、日暮れまでには街に着く。つまり、街まではそう離れていない。

 しかし、柵に囲まれた街は少し面倒なことになっていた。


 街が視認できるほど近づくと、異変が起こっていることに気づいた。


「馬のミーレスですね。ヘテロヴィトがどこにいるかわかりませんが……」


 柵や門の周りを奇形の馬がうろついている。門の外に本来いるはずの番人はいない。死体も見当たらなかったが、血痕はあった。

 どうにか柵の中に入って中の人間を連れて帰ろうとしている様子だ。どこかに隠れているヘテロヴィト本体の餌とするために。


「村に救援が来ない理由がわかったわね。ここの街の人は、ヘテロヴィトの知識があるはずよ。だから警戒して、動けなくなってる」


 リーンが周囲を見渡しながら静かに言う。声を潜めているのは、ミーレスに気づかれないため。

 今のところ、ミーレスは街の方に目が向いている。けど、外に人間がいるとわかればすぐに襲ってくるだろう。つまり僕たちにだ。


 ヘテロヴィトもどこかに隠れているはず。僕たちを視認して、襲いかかる可能性はあった。

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