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2-25 権力者への脅迫

 ルミナスは掲げた光球から細かい矢を作って、次々に兵士に向けて放ってるらしい。

 剣や槍を弾き飛ばし、足を射抜いて動きを止める。自分に向かってくる兵士も難なく返り討ちにする。


 僕は次々に無力化されていく兵士をかき分けながら、指揮官である司政官の方へ走った。


 司政官は肩を抑えたままなんとか立ち上がろうとしていたけど、僕はそいつの顔面を蹴り上げて仰向けにひっくり返させた。さらに司政官の体に馬乗りになる。


「全員動くな! この男がどうなってもいいのか!?」


 可能な限り声を張り上げて、その場の全員の注目を集める。


 司政官の首に剣を突きつけている僕の姿を、兵士たちは目の当たりにしたはず。


「みんな。僕のところへ」

「ええ。この男、どうしてやろうかしら」


 兵士から奪ったらしい剣を持ったリーンが、真っ先にこっちに駆け寄った。そして司政官の顔を見下ろす。


 僕に蹴られた際に鼻を強打したのか、大きく曲がった上に鼻血が出ている。

 けれどそんなことも気にならないようで、こちらを凝視しながら怯えた表情を見せていた。


「まずは、兵士たちに武器を捨てるよう命じてください。さもなくば、あなたを殺します」


 短剣をしまいながら、シャロがこっちに来ながら語りかける。周りの兵士は槍を持ち直し、こっちに向けていた。

 けれど指揮官がこの状況では動けないらしい。


「そ、そんなことをすれば、どうなるのか――」

「ギルさん。殺さない程度に痛めつけてください」

「え? うん」


 刃の切っ先を、司政官の傷を負った肩口に押し付ける。傷をえぐられる感覚に司政官はさらに悲鳴を上げた。

 兵士たちは当然動きかけるけど、それをルミナスが立ちはだかり牽制する。


「言っておくけど、あんたたち全員よりわたしの方が強い自信あるから!」


 さっき全員の目をくらませた光球の小さいやつを出しながら威嚇すると、兵士たちは戸惑ったように動きを止めた。

 目を伏せながら戦うのは困難。ルミナスを見ないで戦えば、大怪我するのは間違いないし。


「司政官さん。僕たちだって、あなたを殺せばどうなるか、よくわかっています。むしろあなたの死がきっかけで、ルミナスの力や僕たちの存在が危険だと街の人間が知ります。あなたの死は無駄になりません」


 司政官の喉を剣の先端で軽く突きながら、僕は話す。

 つとめて冷静に。感情的にならずに。


「もちろん捕まえようとする兵士には、僕たちも全力で抵抗します。ここの通りに並ぶお金持ちの屋敷の半数ぐらいは破壊する勢いで。多くの損害が出るし、それはあなたが僕たちと敵対したのがきっかけですけど……あなたは死ぬので、責任をとる必要もないですよね?」

「ま、待て! 待ってくれ! おい! お前たち! 武器を捨てろ! 武装解除だ!」


 司政官の喉をちくちくと刺していると、司政官はついに音を上げた。

 兵士たちに武器を捨てるように命令したけど、当の兵士たちは困惑の表情を隠せない。


「なにをしている!? 私の命令が聞けんのか!? 早くしろ! この者たちに手を出すのは許さん!」


 兵士は僕たちに攻撃する気配はないけど、武装解除する様子もない。


 誰も聞いていない命令をわめく司政官にうんざりしてきた頃、シャロがため息混じりに口を開く。


「あなたやこの兵士が、今ここでわたしたちを見逃しても、それで終わりってことにはなりませんよね? お城の別の誰かが、わたしたちに興味を持って追いかけてくる。ルミナスの力が危険なのは変わりませんもの」

「そんな……待ってくれ。話し合いの余地はあるはずだ」

「ないですよ。事態がこんなに大事になったんですから」


 交渉の余地なく自分は殺されると、司政官は悟ったらしい。

 ガタガタ震えて泣きそうになりながら、なにか言おうとして言えずに口をパクパクと開けるだけ。


 さて、この男をどうしたものかな。殺したいのは当然だ。

 けれどシャロの言う通りだ。殺そうが殺すまいが僕たちの状況は変わらない。街の権力者がルミナスの力を狙って僕たちを追うだろう。


 その時のことだ。


「その男、殺すのは待ってくれないか? 悪どい者だし、今回は独断専行が過ぎた。だが手綱を握っていれば使いようはある。というより、今死なれると困るのだ」


 声が聞こえた。太く張りのある声。

 威厳をたたえた、聞くものに思わず耳を傾けさせる声。


 振り返ると、そこには馬に乗った老人がいた。兵士たちは彼に頭を下げながら道を開けていく。


 突然現れたその男が何者かわからないまま、僕たちは彼を睨みつける。

 僕は司政官に剣を突きつけたままだけど、リーンは兵士から奪った剣を老人に向けた。


「何者かしら? この男の手綱を握る立場の人らしいけど……握れてなかったらしいわね。もしかして、あなたもこの男と同じ愚図なのかしら?」

「無礼者! 領主様になんという口の聞き方だ!」


 鋭く言い放ったのは、馬上の男に付き従っている、同じく馬に乗った騎士。

 彼もまた歳を重ねた風貌で、武人として相当な格の者と見受けられる。


 なるほど領主か。この街の支配者。一番偉い人間。


 そんなとんでもない相手に、リーンは啖呵を切ってしまった。司政官よりは偉い人とは認識してただろうけれど、予想外だった。


「良い。先に無礼を働いたのはこちら側だ。皆、武器を収めよ」


 領主は隣の騎士をたしなめ、周囲の兵士に命令した。

 これに逆らうのはさすがにできないらしく、兵士たちは戸惑いながらも僕たちに向けていた槍を収める。


 それから領主は下馬して、こちらの前に数歩近づいた。なおも警戒を解かないリーンを前にして歩みを止めたけど。


「旅の冒険者たちよ。この度の騒動、すべてその司政官の独断専行の結果である。その上に立つ私とて無関係ではない。すまなかった。だが冒険者たちよ、ここは私に免じて剣を収めてくれないか」

「そうしたい気持ちはありますけど、領主様自らが我々を襲わないという保証はありますか?」


 目の前の権力者を信頼していいものか、判断がつかない。もちろん、下手に逆らうのが得策とも思えないけど。

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