14-45 パーティーと友達
夕方には、シャロと学術院の捜査官たちが島から無事に戻ってきた。
「牛のヘテロヴィトが埋葬されていました。おそらくはメズによるものでしょう。手足と腹部が食われた跡がありました」
「それも、メズに食われた?」
「はい。ヘテロヴィトの共食いに関して記録はありませんが……できたのでしょうね。人間の部分に関しては」
「メズに食べられたのは、敵対していたからかな? 互いに生き残るために戦って、片方が負けた」
「どうでしょう。他に、島に流れ着いたと思しき人間の死体も骨として残っていましたが、それは埋葬なんてされていません。それに、牛のミーレスは馬と連携しているように見えました」
「そっか」
なんとなく、ふたつのヘテロヴィトの関係性は理解できた。
いずれにせよ、ヘテロヴィトは二体とも死んで怪物が出ることはなくなった。街に平和が戻った。とりあえずは、事件は解決したと言っていい。
「なのでギルさん、明日から学校に行けますね」
「あー。うん。そうだね……」
わかった。行くから。
そんな風に決心をした僕だけど、それは向こうの方からやってきた。
今日の馬の片付け作業が一段落して、みんなで宿に帰ろうかとなった時、エイラたち三人がやってきた。
「ギル。明日は学校来てくれるわよね?」
「行く。行くから」
エイラにまで言われてしまった。再会は嬉しいんだけどさ。
「あー! 思い出した! リーンさんだ!」
「……? あ、ヴィンに剣術を教えられたっていう子?」
ガイルはリーンの顔を見て記憶が呼び起こされたらしい。
リーンが僕のパーティーにいることはガイルには話してないから、これは本気で思い出している。ヴィン以外のことは忘れてたようだけど、こんなことってあるんだな。
「お久しぶりです! ヴィンセントさんのパーティーが壊滅したと聞いて悲しかったですが、リーンさんが無事でなによりです!」
「ええ。そうね。ありがとう……」
すごい勢いで迫ってくるガイルに、リーンは困った様子。
そのパーティーの壊滅の一因が自分にあるし、なんならひとりを自らの手で殺したわけで。反応に困るのも当然だ。
そのこと、黙っている手もあったけど。
「みんな。僕たちのこと、ちゃんと説明するね」
友達だから、隠し事はなしだ。
三人を宿につれていって、夕食を食べながらこれまでの経緯をすべて話した。
僕の本当の出身地と生まれの姓。それから体質とヒカリとの出会い。これまでの冒険。
ヴィンセントという冒険者の栄光と、それによる冒険者としての矜持の喪失と死。僕が殺したということも、しっかり言った。同盟に与してしまったから、こうするしかなかった、とも。
やはり、ガイルが一番驚いている。魔法少女を率いるラトビアスなる少年への憧れも語ってたけど、それが僕だということに一番驚いていた。
同じくらい、ヴィンセントの死の真相にも。
彼が道を誤った結果の死だったという事実は、やはりショックだったらしい。尊敬は本物だったから。
けど、彼は結局は僕のことを認めてくれた。
「ギル。お前はヴィンセントさんの名誉をちゃんと守ったんだな? そして他の冒険者を正しく導こうとしたんだな?」
「うん。そうだよ。……僕のやり方が正しいかは別として、結果は正しかった」
「そうか。だったらいいんだ。さすがは俺の友だ!」
「……ありがとう」
嫌われても仕方ないと思ってたけど、受け入れてくれた。それが、とても嬉しかった。
「こうなったら! 俺もヴィンセントさんの志を継ぐ! いや違うな。ヴィンセントさんが踏み外してしまった道を、俺が正しく進み直す」
「ガイル、まさか冒険者を目指すとかじゃないよね?」
「冒険者にはなれないよな。けど、あの時のヴィンセントさんみたいに強い男になれば、どんな困難でも乗り越えられるはずだ!」
一応、いずれは街の施政に関わる立場は理解しているしい。その上で、精神的な目標としてのヴィンか。
「だからリーンさん!」
「あたし!?」
「ヴィンセントさんのこと、もっと知りたいです! あと剣術を教えてください! ヴィンセントさんに少しでも近づきたくて!」
「え? あー。いいわ。できることならやってあげる」
やっぱり、グイグイ迫ってくるガイルは苦手らしかった。
「ガイルくん。リーンさんが困ってるよ。程々にね」
「それに、勉強も頑張らないといけないわ」
「うっ……ふたりとも厳しいな……」
同級生に窘められて、ガイルもちょっと引き下がった。リーンから教えを受けるのは決まったらしいけど。
勉強といえば。
「あの。シャロさんは学術院の人で、とても頭がいいんですよね?」
エイラが遠慮がちに話しかけた。
「わたしですか? ……学術院とは関わりが深いですけど、所属はしてないです。それに両親や姉たちは優秀ですけど、わたしはまだ休学中の学生で」
「シャロはね、すっごくかしこいんだよ!」
「わたしたちの中で一番頭がいいわ」
「ちょっ! ふたりとも!」
エルフとクォーターエルフが楽しそうにエイラに話しかけていた。
「わたしたちにも、因数分解教えてくれるって!」
「エイラも、いっしょにべんきょうしよ?」
「うん! よろしくお願いします」
「……わかりました。いいですよ。いいですとも」
捕まえた校医の取り調べを手伝うとかの用事もあるはず、けれどシャロは、少し楽しそうだった。




