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2-23 覆面の簒奪者

「うわっ!? なんだこいつ! お前も死ね!」


 眼前にまで到達していた牛に対して、手のひらを向けて爆発を起こす。

 牛の頭部が吹っ飛んだけど、やはり激突する勢いで接近していた牛の動きを殺しきれず、両者は接触。


 牛の首から流れる血を浴びながらブレイズは転倒した。その上に牛の死体が覆いかぶさり動けなくなる。


「あぐっ! しまった! おい! どけ! どきやがれ!」


 既に死んだ牛に対して罵声を浴びせる無意味な威勢と共に、ブレイズはなんとか這い出ようともがく。

 体半分は出ているけれど、それを踏み潰す勢いで別の牛が迫る。


「ああもう! 手間がかかるな! ギル! あの牛は任せた!」

「が、頑張るよ!」


 僕の身長と同じ程度の大きさの盾だけ渡されて、全力で突進してくる牛の相手をしろだなんて無茶を言う。

 だけど僕だって立派な冒険者を目指してるわけで、これくらいで怯むわけにはいかない。


 ブレイズにまっすぐ迫る牛の前に立ち、盾を構える。衝撃を受け止めるのではなく受け流す。

 牛に対して少し角度をつけて接触し、その進路をブレイズの上からずらした。


 当然僕にかかる衝撃も軽減されるけど、無くなるわけじゃない。ドンという音と共によろめくけど、なんとか耐えた。

 そして腰の剣を抜き、こっちに側面を向けている牛に斬りつける

 首を狙うべきだったけど、位置的に僕の腕では届かない。だから後ろ足を狙った。腱を切り裂くように。


 うまく行ったらしく、牛は叫びと共に倒れ込んだ。

 とどめを刺そうとしたけど、なおも手足をばたつかせて暴れる牛に近づけそうもない。


 仕方ない。その場で暴れるだけだし放っておこう。


 ルミナスは複数の矢を放って、近づいてくる牛をまとめて相手していた。

 牛の死体の山ができる。けど、まだ新しい牛は次々に湧いてくる。どこから来るのだろう。



 以前出会った馬のヘテロヴィト、ケンタウロスと呼ばれていた怪物も大量の馬を作り出していた。スキュラと姉が名付けていたヘテロヴィトだって、呼び出した狼の数は多い。

 けれどその両者と比べても、目の前にいる牛の数の方が上だった。相当な体力があるヘテロヴィトなのだろうな。


「ギル、大丈夫?」

「うん。でも剣だと戦いにくいかな」

「わかった。じゃあこれを」


 ルミナスが長い槍を作って手渡してくれる。魔力の消費が心配だから、こっちもブレスレットに触れて魔力を補充。


「ブレイズ! あなたは早いところ脱出しなさい!」

「うるせえな! アタシに指図すんじゃねえ! ぶっ飛ばしてやる!」

「ああもう! 助けてあげてるの、わからないかな!?」


 自分も槍を作ったルミナスが、突進してくる牛の脇腹を刺しながら進行する軌道を逸らしていた。

 踏ん張っているけど牛の体重に持っていかれそうになるルミナスを、僕も体を掴んで転倒しないよう支える。そして倒れた牛の首を刺して殺す。


 さすがにヘテロヴィトも、そろそろ体力の限界が来てもいいはず。牛の襲来は明らかに数が減っていた。

 それもさっきまでは周囲から一斉に押し寄せていたのが、通りの一方向から来るだけになっている。


 正確に言えば、バレンシアの屋敷から出て左側の方向。

 これは領主の城などがある、街の中心に向かった方向。


 ミーレスをヘテロヴィトが生み出すことを考えれば、敵は街の中心部に潜伏しているのかもしれない。


「ねえ。リーンたちはヘテロヴィト、向こうに探しに行ったのかな?」

「さあ。逆かもしれないけど。でも反対側に行ったとしても、ミーレスがいなくなったら、方向間違ったと思って戻ってくるんじゃないかな」

「それもそうだね」


 いずれにせよ、僕たちだってヘテロヴィトを探さなきゃいけないのは同じ。牛が来る方向に自然と足が向かっていた。


 ブレイズとの距離はだんだん離れていったけど、そっちに別のミーレスが襲いかかる気配もない。


 牛の死体から脱出するなんて、ひとりでできるだろう。だから放っておいても大丈夫。


 そう考えたのがいけなかった。



「おい! てめえ誰だ! なにしやが――」


 相変わらず元気なブレイズの声が背後から聞こえて、すぐに途絶えた。


 誰かわからないけど、人間と遭遇したようなことも言ってた。


 不穏な雰囲気を感じ取り振り返ると、暗闇の中におぼろげに人影が見えた。

 顔をよくみようとしたけど、覆面を被っているとすぐに気づいた。


 全身が黒装束だから、その正体はわからない。性別もわからないけど、たぶん大人なのだとは思う。

 その割に身長はそこまで高くない。がっしりした体格ってわけでもなさそう。


 そして覆面の人物はブレイズの体を抱えあげていた。ブレイズは気を失っているらしく、抵抗もしない。


 覆面の人物は僕たちと一瞬だけ対峙しながらも、話し合いや刃を交えたりするつもりはないらしい。

 踵を返してブレイズを抱えたまま逃げ出した。


「あ! 待て!」

「ギル! 牛の相手が先!」

「あー。わかった! さっさと倒そう!」


 新しい牛が数頭まとめて襲いかかってきた。あの覆面の人物との関係は知らない。

 支援してるようにも見えたけど、確信はできない。


 けど、目の前の敵を倒さなきゃいけないのは事実。


 ルミナスから新しい槍と盾を貰い、突進してくる牛を受け止める。そして刺し殺す。

 いい加減こっちも疲れてきて、動きが鈍くなっているのがわかる。


 ルミナスは変身してる間は体力が向上してるだろうから、その影響も軽微だけど。

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