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2-16 更生させたい

 それよりバレンシア家だ。


 なんだっけと記憶をたどると、すぐに思い出した。昨夜司政官が話していた、魔法少女と関連するらしい情報を握っている家。


「はい。城からバレンシア家に昨夜の出来事や、魔法少女の力について話したところ、興味を持たれました。是非みなさんと話したいと」


 たぶんこれは、あの司政官がヒカリとバレンシアの家を結びつけた時から決まっていたことなのだろう。


 バレンシア家になにがあるかは知らないけど、城は魔法少女の力に興味を持ち、その正体に繋がる何かが得られると思っているはず。


 興味なら僕にもあるけど。魔法少女とはなんなのか、僕だって知りたい。

 そのためにお金持ちの家に接近するだけの価値があるかは、正直わからないけど。


 断るのは無理そうだった。仕方ない、晩餐会に招かれよう。




 だからといって、城の金で飲み食いすることに遠慮するわけじゃない。

 ここの食堂でも、十分に空腹を満たさせてもらった。


 特にヒカリは疲れてたのか、大きなステーキを本当にぺろりと平らげた。監視役の男が少し困った顔を見せるけど、構うものか。


 そのまま外出するわけにもいかず、僕たちは再度部屋に戻された。

 晩餐会の時間はまだ少し先だけど、外出するのは監視役がいい顔をしなさそうだ。


 せっかく故郷じゃない街、それもより大きな都市を訪れたのに、観光とか買い物とか町並み探索とかやる余地はなかった。

 部屋に閉じこもって、ずいぶんと退屈な時間を過ごす。


 晩餐会の時間になれば馬車で迎えがきて、バレンシアさんの屋敷まで直接送ってくれるというから、扱いは丁寧だ。


 軟禁って言うべきかもしれないけど。


「ねえギル。もうすぐ夜だよね? 今夜もあのブレイズって魔法少女、出てくるかな?」

「出てくるかもしれないね。姿は見られたけど、捕まってないわけだし。また誰かの顔を焼くかも」

「誰かって、誰だろう」

「それは……」


 ヒカリに尋ねられた質問に、すぐには答えられなかった。


 ブレイズは人の顔を焼く。けど誰だっていいわけじゃない。

 裕福層の住宅地で、みんなが寝静まっている夜中にコソコソ怪しい動きをしている悪人が標的。裕福層の人間ではなく、そこの家に忍び込んで盗みを働こうとする者。


 義賊と呼ばれる、盗んだ金を貧しき人に分け与える泥棒が最初にいた。

 伊達男いわく、大人の美女と言われてる人物。


ここ数日裕福層の住宅地に集まる良からぬ者は、それに便乗して盗みをしようとした奴らだ。

誰かが盗みをしてる状況なら、自分の盗みの罪もそいつになすりつけられるとかの魂胆。


 ブレイズはそういう輩の顔を焼いている。けど、大元である義賊を退治しないことには、便乗する輩がやむことはない。

 だからブレイズが焼くべきは、その泥棒だ。


 けど、それは誰なんだろう。


「なんかさ。あのブレイズって奴、バカっぼいし人の話聞かないし独善的な奴だけど、悪い人じゃないと思うんだよね」


 ベッドに仰向けに寝転がりながら、ヒカリは静かにつぶやいた。


「悪い人じゃないにしても、ずいぶんな言い様だね。でもどうして? 悪人ばかり狙ってるから?」

「うん。悪人を懲らしめるために自分も悪人になるのは、間違ってると思う。でも、それなら正せるんじゃないかな。ぶん殴って懲らしめて、もっと正しいことに力を使いなさいって」

「ヘテロヴィトを倒すため、とか?」

「それもあるけど。あの怪物に限らず害獣駆除とかできるし。泥棒退治にしても、顔を焼くまでしなくてもいいんじゃないかなって。もっと正義の味方っぽい活躍ができると思う。そうさせたい」


 それは決意の言葉。同時に、少し自信がなさそうにも見えるけど。


「わたしと同じ魔法少女だから、そう思えるだけかな。ブレイズを正しく導けるのはわたしの仕事って思えてきた。これはこれで、独善的な考えかもしれないけどね」

「いいと思うよ。やってみる価値はある。あの魔法少女を正そう。僕も手伝う」

「ありがとう、ギル。一緒に頑張ろうね」

「うん。一緒に――」

「ギルが頑張るなら、あたしも手伝うー!」

「うわっと!?」


 喋ってる途中でリーンが抱きついてきた。

 後頭部に柔らかい感触が押し付けられる。それについて考えないように努力したけど、その前にヒカリが怒ってリーンを引き離そうとして状況を口に出してしまう。


「こらリーン! ギルにその下品な胸を押し付けるのやめなさいって!」

「いいじゃない別に。ギルだって嬉しいでしょう?」

「ギル! 本当なの!?」

「僕に聞かないでほしいなー」


 どう答えても角が立つ気がしてならない。

 立ったところで、ふたりが相変わらず賑やかに言い争いをするだけだから、別にいいんだけど。


「ギルさん。あのブレイズなる魔法少女を更生させるのはいいですけれど、それだと今の監視は少し面倒ですよ?」


 シャロがため息をつきながらも話しかけてくる。

 どっちかと言えばブレイズの更生はヒカリの望みだし、彼女に指摘すべきことだけど。でもヒカリはそれどころじゃないし。


「うん。監視しているお城の意図もわからないしね。ブレイズを捕まえて、軍備のひとつとして街に貢献してもらおう、なんて考えてるかもしれないし」

「はい。ブレイズから力を奪って、城の意のままに動く誰かに力を譲渡しようと考えるかもしれません。……あわよくば、ヒカリさんのも」


 だろうな。

 正体不明の少女とか冒険者が持っているよりも、自分たちで使った方が有意義だとか考えているに違いない。だからこその監視だ。

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