2-10 魔法少女ブレイズ
リーンが僕とヒカリの腕を掴んで引っ張り、炎から避けてくれた。
「ありがとう、リーン」
「リーンにしては気が利くね!」
「感謝の気持ちだけは受け取っておくわ。ヒカリ、よくわからないけど、あいつの相手はあなたがやるべきじゃない?」
「ええ。わたしも同感! ライトオン・ルミナス!」
ヒカリからルミナスへの変身。見慣れてるけれど相変わらず美しかった。
炎をけしかけてくる少女と似た格好の魔法少女が登場し、夜の街に光をもたらす。
「闇を照らす眩い光! 魔法少女ルミナス!」
名乗りをあげたルミナスに、炎の少女は軽く目を見開いた。
「魔法少女。へえ。てめぇも魔法少女か! いいぜ相手してやる! アタシは魔法少女ブレイズ! この街を守る正義だ! てめぇが邪魔するっていうなら、ぶっ倒す!」
「正義、ね」
ルミナスはその言葉に、冷笑するような応答をした。
その言葉はブレイズを名乗る魔法少女には聞こえてないらしいけど。
悪人を裁くから正義。ブレイズはそう言いたいらしい。
そのやり方が、悪人の顔を焼くってことか。
「喰らえ!」
獰猛な笑みを見せながら、ブレイズは炎を球体にしてルミナスに投げつける。
ファイヤーボールという、初歩的な魔法にも似ている。兄や姉がかつて使っていたのを見たことがある。
その火球を、ルミナスは光で盾を作って容易く防いだ。ブレイズはなおも連続して火球を放つが、すべて塞がれてルミナスには届かない。
「どうしたの、正義さん? そんな攻撃ばっかりじゃ、わたしは倒せないよ?」
「バカにするなよ! だったらこれならどうだ!?」
火力が上がる。ブレイズの手から球体ではなく、火柱が出てくる。
もちろん上に伸びるのではなく横方向に。まっすぐルミナスに向かっていく。
ルミナスは盾を大きくした。自分の体が完全に覆われる程の、ほとんど壁と呼ぶべき大きさにして完全に防御。
半透明の盾からは向こうが見えるはずが、盾にぶつかり拡散する炎のせいでよく見えない。ブレイズは継続して炎を放ち続けてるから、向こうが見えない状況が続く。
「なんだこれは!? なにが起こってるんだ!?」
「おい! 増援を呼んで来い!」
「は、はい!」
少し遅れて駆けつけてきた兵士のふたりが混乱した声で話している。若い方の兵士が、中年の命令に従ってどこかへ走っていった。
伊達男も何もできないまま、その場で呆然と立っている。
別にいい。僕たちの戦いの邪魔をしなければ。
「ねえギル! あいつがこのまま、いつの間にか接近してくることはありえる!?」
「ありえる!」
向こうだって、延々と火柱をこっちに放つだけの状態を続けようとは考えないはず。別の攻撃を試みるに違いない。
「じゃあ一旦下がるね! 広い場所で戦いたい!」
「わかった! でもその前に、一旦前に出て! あの男を助けないと!」
さっきブレイズに顔を焼かれていた男は、今はルミナスの前に横たわって気を失っている。
ルミナスが防いでいる炎は拡散して地面にも届き、彼の背中も舐めていた。
窃盗を画策していたらしい悪人だけど、むざむざ殺すのもいい気はしない。
「ああもう! 仕方ない!」
「リーン、シャロ、手伝って! ライラは敵の不意の攻撃に備えて!」
指示を出せば、みんなその通りに動く。
ルミナスはゆっくりと前進しながら、盾を少しだけ上にあげた。男が通る隙間ができる。すかさず、僕とリーンとシャロでしゃがんで、その男の体を引っ張り出した。
「この方の治療を! ひどい火傷を負っています!」
「みんな! 敵が目の前に!」
シャロが兵士に男を任せるのと、ルミナスが切迫した声で報告したのはほぼ同時だった。
「下がって! ライラ、牽制を!」
「わかった!」
「まかせて」
普段通りの口調のライラが弓を引き、跳躍。
僕はすかさずライラの下で腰をおろし、手を差し伸べる。その手にライラの足が乗り、これを踏み台にして更に高く跳ぶ。
下がったルミナスの盾の上から、ブレイズに向かって矢を放った。
狙いは正確。だけどブレイズも対策をした。左手から出したのだろうか。二本目の火柱が矢に向かっていき、これを吹き飛ばした。
けれど、それ以上の手数はない。
ルミナスは肉薄してきた相手に対し、攻撃を受けることなく距離を取ることに成功。
建物の間の狭い路地から、比較的幅がある通りに場所が移った。
「危険ですから下がっててください!」
火傷した男に肩を貸す中年兵士と、事態を呆然と見ているだけの伊達男に指示を出す。ふたりとも素直に聞いてくれた。
一番年下の僕の言うことを聞くのは、目の前の戦いが彼らの理解を超えるものだからだろう。
比較的対処出来ている僕たちの言うことに従いたくなったから。
「ねえギル、広い場所に誘ったのはいいけど、周りから一斉に攻撃するのっていい考えだと思う?」
「思わない! とりあえずルミナスは、敵の攻撃を受け続けてほしい。ライラは距離を取りながら矢で攻撃を!」
敵の手の内がわからない以上、迂闊に近づくわけにはいかない。
少なくとも腕一本ずつで、二方向に炎を放つことができるわけだ。一方をヒカリが防御してても、もう一方を防ぐ手段がなければ餌食になるだけ。
攻撃手段が他にあるかもしれないし、うかつには動けない。