表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/874

2-7 見回りの依頼

 旅先の料理をじっくり味わいたい気持ちをこらえつつ、出てきた料理を大急ぎで平らげる。そしてそそくさと店を出た。


 ギルドがまだ開いていたら、その手の依頼を受けて今夜のうちに実行できるかもしれない。


 泥棒が出るのは夜だから、今夜を逃すとまた明日の夜ってことになってしまう。


 ここまで来るのに歩き疲れてるのも事実だけど、とりあえず様子見だけはしておきたかった。


 周りを見れば、酒場の客も早めに飲食を切り上げたり、酒を飲むのを控えている者がちらほらと見受けられた。

 今から泥棒関連の仕事をするつもりなのかも。


「ヒカリ。大丈夫? 疲れてるよね?」

「え? 平気平気。変身してる間は疲れないから。ギルが魔力、いくらでもくれるしね!」

「そっか。じゃあお願い」


 かの泥棒がどのような相手かはわからないけど、捕物になって戦闘が起こればヒカリの力に頼るところが大きい。

 ヒカリが動けるかは最重要事項だ。


 それに夜だし、魔力を光に変換できる魔法少女の能力は便利だ。


「ギル。あたしの力も頼っていいのよ?」

「もちろんだよ、リーン。頼りにしてる」

「ねえギル。わたしとリーン、どっちが頼りになる?」

「え……えー?」

「ヒカリさん。ギルさんが困るので、そういう質問はやめましょう」

「ねえ、みんな。ギルド、まだあいてるみたいだよ?」


 答え方のわからない質問からシャロとライラに助けられて、僕はギルドの建物に目をやる。

 たしかに明かりがついていた。


 人の出入りもある。陽はとっくに落ちていて、普通ならもう閉まってる時間帯だと思うんだけど。


「多分ですけど、街の裕福層が絡んでいるのだと思います。例の泥棒関連の依頼を多くの冒険者が受けられるように、夜まで開けるよう要請したとか」

「あー。ありえるわね。ギルドに金を握らせたとか?」

「そこまで露骨ではないでしょうけど。職員の労働時間が増えた分は補償するとか、そんなやりとりはあったはずです。ギルド側も街の治安維持に有効な案件なら、反対もできないでしょう」


 ギルドは国が運営してる機関だけど、実際のところは置かれている街の意向にも沿わないといけない。

 ここでいう意向とは街の住民ではなくて、権力者であり金持ちだ。


 もちろん、実際に働く冒険者が権力者の命令に従うとは限らないから、権力者側も相応の報酬を用意しないといけないのだけど。


「おー。たしかに、夜中にやってほしいって依頼が多いわね」

「昼に仕事終えた冒険者に、もうひと仕事してもらおうって考えみたいですね」

「確かに。街の見回りが多いかな。屋敷の敷地内で警護してくれって依頼もあるけど。ねえギル。どういうのを受けるべきかな?」


 ヒカリに尋ねられて、少し考える。


 街のお金持ちが依頼を出して対策すると言っても、複数人いる彼らが話し合いの上で示し合わせて依頼を出したわけじゃない。

 それぞれの家が危機感を持って、だいたい同じタイミングで依頼を出しただけ。


 だから依頼主はほとんどがお金持ち個人だ。

 屋敷の敷地内に入れて警護を依頼するか、屋敷の周りを歩き回って不審人物がいないか警戒する。目につく依頼はみんな、そんな内容。


 敷地内に入る依頼は冒険者側にも信頼が求められているのか、必要な等級が高く設定されている。とはいえ四等級のリーンがいる以上、その手の依頼も問題なく受けられる。


 けど僕らが目指しているのは、泥棒を捕まえて名を上げることでもある。お金を稼ぐのもいいけど、せっかくなら泥棒と対峙して捕まえたい。

 だったら特定の屋敷やその付近を見回るよりは。


「ギル。これ」


 僕の考えを見透かしたのか、ライラがひとつの依頼を指差す。


 依頼主は領主。というより、領主の名で街が主体になって出した依頼か。


 裕福層の住宅街の見回りを行う兵士に同行するという内容。

 見回りってことは、広い範囲を歩き回れる。それに何か騒ぎがあれば、そこに急行できる。


 そんなに高い等級が求められる仕事ではない故に、報酬は割安。でも受けてみる価値はあるか。


 よく見れば、街からの同じ内容の依頼が他にも何枚も貼られている。


 ひとつのパーティーが受けられる依頼がひとつだけという決まりは、裏を返せば特定の依頼をお願いできるのはひとつのパーティーに限るってことでもある。


 同じ内容で大量の冒険者を動員したいなら、こうやって同じ内容の依頼を張り出す必要がある。

 もちろんギルド経由で依頼する手間賃も枚数の分かかるし、容易なことじゃない。


 それだけ、街が今回の件を重く見てるってこと。狙われてる金持ちからの要請もあるんだろうな。


「みんな。とりあえず、この依頼受けるってことでいい?」


 僕の提案に、みんな肯定の返事をする。よし、やろうか。




 日が完全に沈んでから時間も結構経ち、空には細い月が浮かんでいた。

 月明かりは期待できそうになく、夜は暗闇に支配されるだろう。


 裕福層の家ということで、夜はみんな寝入っていて静かなはずだ。

 品を求める気風もあるから。遅くまで酒を飲んで騒ぐなんてことはしない。

 冒険者を始めとする庶民の暮らす街とは対照的。


 だけど今夜は違う。そこかしこに松明の明かりが見える。もちろん、僕たちも掲げている。


 ヒカリにはルミナスに変身してもらおうと考えたけど、あまり目立つのも避けたい。


 松明じゃない明かりを持った奇妙な格好の女の子について、会う人にいちいち説明するのは面倒だからね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
面白ければクリックお願いします。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ