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1-56 ふたりでの決着

 スキュラが伸ばしてくる触手を剣で振り払う。香草の匂いから遠慮がちに襲ってくる狼も、ルミナスの矢が仕留める。


「覚悟しなさい怪物! 昨日の借り、返してあげる!」

「言ってなさい! あなたにアタシは倒せない!」


 スキュラは狼を触手で掴んで数匹一気に投げつけた。

 ルミナスが矢でほとんどを射抜き、最後の一匹は盾を作って受けつつ、その盾を一瞬で剣に変えて切り伏せた。


「いい加減手下に任せないで、自分で戦いなさい!」


 スキュラの眼前まで迫り、剣で突く。しかしそれも、跳躍しながら主人をかばって前に出たミーレスの体に刺さるだけ。


 すかさずルミナスが僕を押しのけ光の剣で突く。今度は止めるミーレスもいなかった。仕方がなくスキュラは自身の触手で我が身を庇う。

 太めの触手の真ん中を剣が貫き、引き裂く。

 痛みにスキュラは悲鳴をあげた。


 さっき刺したミーレスから剣を強引に引き抜き、再度斬りかかる。

 スキュラは当然飛び退いたけど、少しだけ間に合わなかった。


 剣は彼女を支えている狼のうち、ひとつの首に刺さった。その狼は直後に死に、支えのひとつが無くなったスキュラの姿勢がガクンと崩れる。


「ルミナス!」

「わかってる! 畳み掛けるよ!」

「ちっ! やってくれるじゃない!」


 明らかに形勢不利と悟ったスキュラは、足の狼に剣が刺さったまま後ずさりつつ、懐から何かを取り出す。


 液体の入った小瓶。向こうの世界へ逃げる穴を作る、魔術的な薬品。


「行かさない、から!」

「もう逃さない! 二度と!」


 ルミナスがスキュラの手に矢を放つ。床に小瓶を叩きつけようとしていた瞬間に命中。小瓶を取り落としてしまったけど、このまま床に落ちて割れたら結果は同じ。


 すかさず走り、落ちる前になんとか受け止める。それから小瓶を、できるだけ遠くに投げつけた。数十歩分離れた場所に黒い穴が開く。


「小癪な真似を!」

「ぐはっ!」


 怒りに身を任せたスキュラに、下半身の狼の一匹で蹴りつけられた。一瞬体が床から浮き、直後に重力に従い激痛と共に叩きつけられた。


 けど、気を失ったりしない。

 今度は負けない。歯を食いしばり立ち上がった。


「ギル! 無事!?」

「大丈夫。それより、今なら殺せる」


 スキュラに戦う意志はすでになく、こちらに背を向け穴へ逃げようとしていた。

 好きだったらしいフローティアすら置き去りにするつもりか。


「逃さない……」


 スキュラにむかって走りつつ、その背中に向けて手を広げ、特大の光球を作るルミナス。


 足が一匹死んで、しかも剣が刺さったままのスキュラの動きは、足を引きずっているようで鈍い。確実に当てられるはずだった。


 けれど主を守るべく、忠実な尖兵たちが両者の間に割り込み、群がり身を重ねて壁を作っていく。


「よし! 突っ込むよギル! もうどうにでもなれ!」 

「わかった! けど、どうにでもはならない!」

「わかってる!」


 生きてこの戦いを終えなきゃいけないから。


 ルミナスは片手で狙いをつけながら、片手で髪を結ぶリボンを解いて僕に手渡した。

 それは手の中で、何度も見てきた剣に形を変えた。


「あの壁はわたしが崩す。ギルはあの女を殺して!」

「僕が……」

「そう。ギルが。いけるよね?」

「もちろん!」


 そう返事した直後、閃光が駆け抜けて狼の壁を崩した。壁を貫通したその光はスキュラの背中に直撃。多少の傷は負ったかも。


「ギル! いくよ!」


 その言葉を受けて、剣を握って走る。

 ルミナスは並走しながら、続けて矢を放ち僕を援護する。周囲から群がるミーレスを、ことごとく矢で射抜いていった。


ミーレスを飛び越えてスキュラに肉薄。スキュラもまた振り返りつつ触手を数本まとめて伸ばしてきた。剣で振り払い身を躱して、スキュラに接近して。

 力の限り剣を振り下ろす。スキュラも触手で我が身をかばった。その触手をぶった切り、本体の肩から胸にかけてばっさりと切り込んだ。


「あ……あ……が……」


 なおもスキュラは僕に触手を伸ばして首を絞めようと触手を伸ばす。それを、駆けつけたルミナスが新たに剣を作ってぶった切る。


 抵抗する力がほぼなくなったスキュラの体に、ふたりがかりで剣を突き刺す。刺しては抜いてを何度も繰り返した。


 やがて音を立てて、巨体が倒れた。


「勝てた……のかな」

「ギル! やったね! 勝った! 勝ったよ!」

「おっと」


 そろそろ抱きついてくると予測できたから、身構えながらルミナスの体を抱き返した。


 周りを見ると、ミーレスたちが全員バタバタと倒れていた。

 主人が死ぬとその尖兵も生きてはいられないってことかな。



 シャロとライラは身を寄せ合って、背の高い男の死体を見下ろしていた。

 リーンは少し悲しげな表情で、倒れているフローティアのそばに座っていた。

 そのフローティアの顔は血まみれでグチャグチャで、かつての美貌は跡形もない。当然の報いだろう。死んではないようで、弱々しい呼吸音が聞こえた。


 いずれにせよ、僕たちは勝てた。今度こそ街を脅かす怪物を討てた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ちょっと気になったのですが、スキュラちゃんはどれくらいフローティアに本気だったのでしょう? ヘロデヴィトって交配できないということですが、それなのに性欲的なものはあるということですか?…
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