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1-51 同盟の人間

「フローティア。あなたが……」

「悪者って言いたいの? ヒカリにとってはそうかもね。でもその言い方は酷いわ。わたしはただ、スキュラと一緒にいたいだけなのに」


 フローティアはスキュラと呼ばれた怪物に顔を近づけ、そっとキスをした。


「わたしたち、結ばれる運命だったのよ。初めてあの森で出会った時、お互い一目見て好きになった」

「今まで人間なんて食料としか思っていなかったけど、でもティアは特別。ああ……かわいいティア……浮気性なのを除けば完璧な女の子なのに」


 人前だというのに、ふたりはなんの遠慮も無しに愛を語り合う。


 お金持ちのお嬢様と森に住む怪物が、ある日出会ってしまった。

 たぶんフローティアが気まぐれに森に入ったとか、そんなことがあったのだろう。そして惹かれ合った。


「浮気性? かわいい物、美しい物が好きなだけよ。特に女の子は、いくらでも欲しい」


 ふと、フローティアがヒカリに視線を戻した。獣が獲物を狙う目。


 前に感じた、この人が苦手だと思った理由がわかる。この女はわたしを愛そうとしている。こちらの意思に関係なく。


「わたしが欲しいから、わざわざこんな所まで連れてきたの?」

「こんな所なんて言わないで。ここはわたしの家の屋敷よ」

「あなたの?」

「そう。この屋敷に大勢の女の子を集めて楽園にするの。パブロみたいな商人に頼んで世界中から女の子の孤児を集める。彼が亡くなったのは損失ね。家を継いだら、他所の街の孤児を融通してもらう約束だったのに」

「あの商人の悪事、あなたは前から知ってたの?」

「ええ。もちろん。わたしたち、目的は違うけど同志だったから」

「同志? それって……」

「そう。フローティア様は、我が咆哮同盟の同志でいらっしゃいます!」



 フローティアでもスキュラでもない、第三の声が聞こえた。

 幅の広い階段から、男がひとり降りてきた。背の高い色白の男。その両目は爽やかな青。


「あなたの名前、知ってるかも。クラウスでしょう?」


 男が次に何か言う前に、ヒカリは尋ねた。図星だったか、彼は少し驚いた顔をする。


「おや? なぜ私の名前を? フローティア様?」

「わたしじゃない。あなたなんて正直どうでもいいし。わたしの楽園に男はいらないわ。出ていって」

「そうしたい所ですが、どうやら街で私が探されているようでして。うかつに外に出られないのです。ああ。それで名前も知られているのですね。なぜ私の存在が明るみに出たかは、知りたいですが」

「わたしは知りたくないの。外に出られないなら、せめて屋敷の奥に引っ込んでなさい」

「同じ同盟の人間なのに、なんか仲悪いね。もしかして咆哮同盟って、案外弱い組織?」

「お黙りなさい」


 ヒカリの挑発に、組織に心酔しているらしいクラウスは安易に乗ったようだ。


「私はヘテロヴィトにすべてを捧げると決めて同盟に忠誠を誓いました! この美しさのためなら我が身を投げ出すと! 同盟の運営に関与せず、私欲のために寄付だけ行うパブロやフローティアのような支援者とは違います」


 つまり、パブロもフローティアもただのスポンサーと言いたいらしい。そしてこの男はよほど同盟に陶酔している。


 ただの支援者と呼ばれたフローティアも、特に気分を害した様子はないらしい。


「なんとでも言いなさい。わたしはスキュラと、大勢の女の子を囲む楽園をこの屋敷に作るだけ。ヒカリはそのひとり目よ」

「そういうひとり目は嬉しくないかなー。ていうかこの屋敷に作るの? それって危なくない? 家族の目とか。怪物と愛し合ってますって、ご両親には報告した?」

「わたしの楽園を心配してくれるの? ありがとう。でも大丈夫。家族のうち、兄は婚約破棄を苦にして死にました。両親は今、しびれ薬を飲んで部屋で倒れてるけど……息子の死を悲観して、体調を崩すか不幸な事故にあって大怪我をするかして、早々に隠居してもらうつもり」

「どうしても抵抗するっていうなら、アタシが食べてしまえばいいしね」

「そういうこと。屋敷の使用人もこのまま働くか、口を閉ざして屋敷から出ていくか、スキュラに食われるか選ばせるわ。そういうわけで、わたしはもうすぐ家の支配者になる」

「その時が楽しみですね。フローティア様が当主になれば、同盟としても今以上に堂々とお手伝いができます。それに見合った寄付も頂けるでしょうし」


 くっくとクラウスが笑う。


 こいつらは揃いも揃って、我欲にしか興味がない。そんな人間が手を組んだ集団だ。


 そんな醜い企みを許すつもりはない。たとえ戦う力がなくても、阻止しないと。


――ヒカリさん。もしまだ戦う気力があれば、これを。


 昨夜、怪物に連れて行かれそうなヒカリを抱きしめたラティスは、そう言って短剣をヒカリに握らせた。

 直前まで人形を彫るのに使っていたそれは、今は服の背中側に隠している。


 人食いの怪物と魔法使いの女と、得体の知れない男。それから大量の狼。

 この集団と戦うには心もとない武器。けど、なんとかしてみせる。

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