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1-48 喪失

「この! 離して!」


 ルミナスはすぐさま、ブレスレットから光を放出。噛み付いている狼の喉に向かって直接矢を放って殺す。

 しかし次のミーレスが迫る。それにヘテロヴィトも。


「そっちにばかり構ってていいのかしら?」


 ヘテロヴィトが数本の触手を一気にルミナスへと伸ばし、手足に絡みつき動きを封じる。


「さあ。一緒に行きましょうか!」

「させない!」


 ルミナスの体を触手で引き寄せながら逃げようとするヘテロヴィトに向かって、駆ける。阻止しようとしたミーレスに剣を振り下ろして殺す。


 ルミナスもまた、もがき抵抗していた。ブレスレットから光を何らかの武器にして、自らを抱き寄せているヘテロヴィトを殺そうと試みる。

 けど、それを許すヘテロヴィトではなかった。


 女の体を支えている狼の一体が、ルミナスのブレスレットに噛みついた。普通のミーレスよりも体格が良く顎の力も強いらしい。

 ルミナスが悲鳴をあげるのにも構わず、狼は力を込めて噛み続けて。



 ぱきりと音がして、ブレスレットは真っ二つに割れた。


 床に落ちたそれは、あっという間に光を失っていき、単なる金属のブレスレットの残骸になった。



 同時にルミナスの変身が解け、ヒカリへと戻っていく。


「う……そ……。そんな……」

「いいわね。その絶望に染まった顔。あの子があなたのこと、好きになる気持ちもわかるわ。本当にかわいい。じゃあ、行きましょうか」


 戦う力を失い、ヒカリは呆然としていた。そんな彼女を連れて行こうとするヘテロヴィト。

 僕と神父様は阻止すべく必死に追いすがった。行く手を阻む狼を斬り、蹴り、殴って道を開ける。けど僕の実力では無理があった。


 狼の一匹の当て身が、僕の腹部に直撃。仰向けに転倒して、強かに頭を打った。遠のきかける意識をなんとか保とうとするも、視界に霧がかかったようにはっきりしない。

 そのまま噛み殺そうとする狼の顎を掴んで止めるのが精一杯。


 神父様はヘテロヴィトとヒカリの方へたどり着いていたようだ。触手に絡め取られたヒカリの体を掴んで抱き寄せ、取り返そうとしている。

 けど、その神父様の脇腹に下半身の狼が噛み付いた。


 ヒカリの悲鳴が聞こえる。直後、ヘテロヴィトは神父様の体を突き飛ばし、神父様は力なくその場に倒れ込んだ。

 助けないと。ヒカリを取り戻さないと。必死に立ち上がるけど、足が震える。打った頭の痛みは引かず、視界を覆う霧も晴れない。


「あら。坊やはまだ立てるのね。あの子は異常者の無能って言ってたけど、頑張るじゃない。でも、ここで終わりね」


 ヘテロヴィトが暴れるヒカリの腹を殴り、静かにさせていた。そして教会の扉をくぐり外に出ながら、ミーレスをけしかけてくる。それを阻止する力は僕にはなかった。


「ギル!」


 ああ。声が聞こえた。リーンの声だ。ようやく駆けつけてくれたんだ。

 揺れる視界の中で、狼相手に剣を振るうリーンを見ながら、今度こそ意識を失い床に倒れ込んだ。






 目が覚めた。柔らかいベッドの上で身を起こす。ここは教会の中。子供たちが普段眠っている寝室。


「ギルくん起きたの!?」

「だいじょうぶ? 痛くない?」

「良かった! 良かったよお!」

「えっと…………」


 目覚めた途端、ベッドを取り囲んでいたらしい子供たちが一斉に反応した。喜んだり心配したり、安心のあまり泣き出したり。


 もしかして、倒れた僕をずっと見守っていたのかな。


「ごめん。心配かけたね。大丈夫だよ。神父様……じゃなくて、誰か呼んでくれるかな」


 神父様は狼に噛まれて、浅くない怪我を負った。薄れゆく意識の中でそれは覚えている。安静にしてもらわないと。

 とはいえ現状を知りたいし、人を呼んでもらった。


 リーンかシャロが来ると思ったけど、実際に来たのは意外な人物。


「よう。取り敢えず生きてて良かった。動けるか?」

「ライネスさん……」

「おう。俺だ。狼の怪物が街の中に出たって聞いて、急いで駆けつけた。リーンから事情は聞いてる。大変だったな」


 ヘテロヴィトの討伐はギルドの仕事。関連した事件があれば、ギルドマスターが動くのは当然といえば当然。


「あの。リーンたちは?」

「さあ。用事があるって言って出ていった。昼過ぎには帰ってくるとさ」

「昼過ぎ。ええっと。今は?」

「朝だ。頭打った割には、一晩寝たぐらいで目覚めるとは。若いってのはいいな!」


 愉快そうに笑うライネスを見て、少し気が楽になる。もちろん状況は呑気なものじゃないけど。


「ヒカリの行方はわかりましたか? 怪物に攫われたんですけど」

「いいや。わからん」

「そうですか……」

「お前も大変だな。昨日お兄さんを亡くした後に、すぐこんなことがあって」

「はい? 兄ですか?」


 思ってもなかった人の名前が出て、思わず聞き返す。ガイバートが死んだ?


「聞いてないのか? ああ。昨日は一日森にいたからな。実は……」



 一昨日の結婚式が中止になり、両親や多くの街の有力者に自身の悪行が知られた翌朝、彼は屋敷の自室で首を吊った遺体となって発見された。


 遺書の類は見つかっていない。

 しかし直前まで大量に飲酒をしていた痕跡があり、酔った勢いで将来を悲観しての末の自殺と思われている。


「街の方ではそれなりに話題になってたぞ。あれでも、名門の次期当主だからな。弔問客はそれなりに来てたそうだ。葬儀はまだだが、近いうちに行われるらしい」

「そうですか。でも変じゃないですか?」

「なにがだ?」

「あの人は、そんな理由で自殺したりしません。どっちかというと、僕を逆恨みして復讐の手立てを考えるはずです。そういう性根ですよ、奴は」

「そうなのか。でも実際死んだしなあ……」


 それもそうだ。それに、ライネスに対して文句を言ってもしょうがないこと。でも、この自殺にはなにか裏があると思う。

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