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1-43 結婚式

 翌日、僕たちパーティーとルベルノさんとで、再びラトビアスの屋敷を訪れる。


「自分の家で結婚式ってするものなんだ。お金持ちってすごいね」

「自分の屋敷で豪華な結婚式を挙げるのを周りに見せることで、財力とか家の格を見せつけるんだ。屋敷なんて持ってない家は、教会で挙げたりするけど」

「それはわたしの世界でも同じかな。神父様はもう来てる?」

「僕たちより早く出たわけだから、来てるはず」


 ヒカリの世界とは違う神様だけど、夫婦が神の前で愛を誓う儀式なのは同じ。その立会人を聖職者がやるのも同じらしい。



 神父様もこの結婚式に呼ばれている。そして、リーンの救出作戦を話したところ同意を得られた。

 相愛でない夫婦の結婚は認めたくないとの思いが、神父様にもあるらしい。


 門の外からでもわかるほど盛大な結婚式が行われようとしている中、堂々と入ろうとする。当然門番から止められたけど。


「僕はこの家の人間です。結婚をする兄にお祝いを言いに来ました。それとルベルノさんの気が変わって、兄に渡すものを作ったとのことなので、一緒に来てもらいました。では」


 理由があるのだから通れるはず。後に続くヒカリたちには理由がないのだけど、僕の連れで押し通した。


 この結婚式には、街の有力者が大勢呼ばれている。急な結婚なのによく呼べたものだけど、それが家の強さの証拠。

 来客は次々と来るわけで、僕たちに構う時間はあまりないはず。思っていたよりあっさり門を突破できた。 


 次に手分けして、神父様とリーンを探す。シャロとライラで神父様がいそうな所に行ってもらい、残る僕たちがリーンを探す。


 これも簡単だった。屋敷の構造はよく知っているし、新婦の控室として使われそうな部屋にいくつか心当たりがあった。


「こんにちはー。新婦友人代表です。結婚するリーンさんを見送りに来ました!」

「違うでしょ、ヒカリ。リーン、助けに来たよ」

「ギル! やっぱり来てくれたのね!」

「うわっ!」


 部屋に踏み込むと、純白ドレス姿のリーンが僕に抱きついてきた。顔を胸に押し付けられて苦しい。


「助けに来てくれると思ってた! さすがあたしの王子様!」

「ちょっとリーン! 離しなさい! ギルが窒息するでしょ! 捕らわれのお姫様とかダサいし! てか胸の下品な脂肪の塊のおかげでドレスがパツパツじゃない! 痩せろ!」

「ふふん。これはこういうデザインなの。ヒカリには絶対似合わないけどねー」

「ぐぬぬ……」

「リーン。離して……。これからの動きを説明するから」


 僕に言われて、リーンはようやく解放してくれた。


「動き? みんなで暴れて、この屋敷を破壊しながら強行突破で逃げるんじゃないの?」

「それも楽しそうだけど、取り戻さないといけない物ができた。リーン。ガイバートから、なにか贈り物を貰ってない?」

「贈り物? いいえ。まだ貰ってないわ。とびきりのプレゼントがあるとは言ってたけど」

「ならば、まだ奴が持っておるわけか……」

「ええっと。ギル? この髭が立派なおじいさんは誰?」


 事情を飲み込めてないリーンに、これまでの経緯とこれからの計画を説明。理解してくれた所で、僕とルベルノさんで兄の所へ向かう。



 リーンとヒカリは少し離れてついてくる。ちょうど良く、神父様を連れたライラたちも来てくれたから、リーンたちと一緒にいるよう指示した。


 兄の部屋の前に立ち、耳をすませる。兄を含めた数人の話し声が聞こえた。

 会話の内容や時々聞こえてくる品の無い笑い声を聞くに、話の相手は両親ではなく友人だろう。

 それも街の上流階級の親しい者ではなく、夜に酒を飲みに街に行く時の子分みたいな物。


 お金持ちをおだてて、おこぼれを貰う卑しい奴ら。でもあいつらは自分もガイバートと同等の存在になった気でいるのか、僕みたいな異常者を露骨に見下してくる。


 正直全く気が乗らないけど、リーンとルベルノさんのためだ。腹を据えよう。


「ごきげんよう、兄上。この度は結婚おめでとうございます」


 できるだけ堂々と言いながら部屋に入る。案の定、兄とその取り巻きは怪訝な顔をしてこちらを見る。興が削がれたとでも言いたげだ。


「なんの用かな、無能さーん?」


 子分のひとりがおどけたように言って、笑いが起こった。怒るべきかもしれないけど、ここは我慢だ。


「ルベルノさんが、お祝いの品を持ってきたそうですよ」

「ほう?」


 僕の隣のドワーフを見て、兄は片眉を上げる。そんな彼にルベルノさんは睨み返すような視線を向けて、手にした小さな袋を見せた。


「渡す前に、お前が盗んだ物を返せ。あれは儂の宝だ」

「ふん。あれか。いいだろう。ドワーフが作った工芸品なら何でもいい」


 机の一角に置かれていた、鈍い銀色の像。兄はそれをルベルノに放ってよこした。慌ててそれを受け止めるルベルノ。


 なるほど確かに、若い女性をかたどった物。その精巧さは作り手の卓越した腕前を伺えさせ、価値のある物だと一見してわかる。


 兄はついで、ルベルノから袋を奪って中を改める。昨日急いで作った金属細工のペンダント。細い金属を曲げて形を作っていて、一見すればきれいな物に見える。


「いいだろう。もうお前に用はない。帰れ」

「言われんでも。だがその前にひとつ教えろ。なぜ盗んだ?」

「ふん。金は払っただろ」

「あれは売り物ではない! 儂の宝だ! 勝手に持っていって良い物ではない!」

「しつこいな! 返したからいいだろ! そもそもドワーフ風情が、この俺に偉そうな口を聞いてただで済むと思うなよ!」

「ガイバート様は、ドワーフ風情が作った物をあたくしに贈るつもりだったのですか?」

「なっ!?」


 半分開いた部屋の扉の向こうから、かしこまった口調のリーンの声がして、それを聞いたガイバートは絶句した。

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