1-33 捕縛される商人
門をくぐって街に入る。空を見れば、日が傾きかけていた。
ヒカリは、今日も教会に泊まりたいと主張した。事件解決を、子供たちも交えてみんなでお祝いしようって。
気持ちはわかるけど、いいのかな。
パブロがやっていた悪事は、子供たちや神父様にとって気持ちのいい物じゃない。パブロ自身が捕まっても、奴の手で卑劣な金持ち連中に売られた子供は帰ってこないのだから。
素直に喜びお祝いをする気分にはなれない。
「そっか。そうだよね。ごめん……」
「ううん。ヒカリが悪いわけじゃないから」
「あの。そういえば、あの商人は捕まったのでしょうか」
話題を逸し、気まずくなった雰囲気を変えるようにシャロがそう口にした。
「どうかな。領主様の兵士は優秀だから、取り逃がすことは無いと思うけど……」
心配なら誰かに話を聞いてみよう。ギルドに行けば噂話程度なら聞けるだろうし、街のどこかを巡回している兵士に尋ねてもいい。
とりあえずギルドに行こうとしたところ、通りの向こうから悲鳴が聞えた。それから、誰かの喚き声も。
「どけ! そこをどけ! 蹴り殺されても知らんぞ!」
冷静さを失った声。しかし誰の声かは知っている。
ヒヒンという馬の鳴き声と蹄が石畳を叩く音と共に、パブロがこちらに近づいてくる。騎乗して、通りを歩く人を威嚇しながら門の方向へと一直線に走る。
人々は馬に蹴られないようにと、我先に道の脇に退避する。それからパブロの背後に、同じく馬に乗って彼を追いかけている兵士数人が見えた。
「ねえギル。あれって」
「パブロが逃走を図ろうとしている、とかかな?」
「そうだよね。よし、止めよう」
ヒカリはすぐさま変身しようとしたけれど、その前にライラが動いた。いつものように一瞬で矢をつがえて弓を引き、手綱を握るパブロの腕を射抜く。
痛みに悲鳴をあげながらパブロは落馬。
石畳に体を打ち付けながら、こっちにゴロゴロと転がってきた。
それでもなんとか起き上がり、逃げ続けようとした彼は、僕たちの姿を見て顔を引きつらせた。殺すよう命じた標的が揃って目の前にいる、その恐怖はどれほどのものだろう。
「た、助けてくださいギルバート様! いわれのない罪で追われているのです!」
「観念してください。あなたの悪事はすべてわかっています。子供を売り飛ばしてきたことも、僕たちを殺そうとしたことも」
「ひいぃっ!? ご、誤解です! 全ては誤解なのです!」
この期に及んで言い逃れしようとする醜い商人だけど、僕たちの冷たい視線を見て無駄と悟ったらしい。それでも逃げることだけは諦めず、逃走を続けるべく走り出そうとして。
「そういえば、あなたはわたしがケリをつけるって言った気がする」
当人の聞こえてない所で口にした決意を一方的に言い渡しながら、ヒカリはパブロの顔面を思いっきり殴った。
倒れながら痛みにうめき、のたうち回る商人の懐から、たくさんの金貨が音を立てながら落ちた。
まとまった財産を持って逃げようとしたのだろう。
「ご協力に感謝します。この者の身柄は確かに確保いたしました」
「ご苦労さまです」
追いついた兵士たちがパブロの体を拘束し、屋敷の方へと連れ戻していく。それから兵士のひとりから礼を述べられた。
ついでに何があったか尋ねた。パブロは、自分を監視している視線に気づいて、一旦身を隠したらしい。そして街の中を捜索する兵士の隙をつき、馬に乗り逃げ出しとのこと。
もう逃げることはできない。兵士たちの詰所の牢に入れられ、領主様から裁きが下ることになるだろう。
その前に、ヘテロヴィトと知り合った経緯や、売った子供たちの行方についても調べられるだろうけど。
けどそれは、この街の兵士の仕事だ。僕たちの役目は終わりってことでいいかな。
「ねえ。これは、なに?」
ふと、ライラが地面に光る物を見つけて拾い上げた。美しい光沢が夕日に照らされ、赤い光を放っている。金属の塊のようなもの。
さっきパブロの懐から、金貨と一緒に転げ出た物。金貨は兵士たちがあらかた回収してしまったけれど、これは見逃してしまったらしい。魔法を使わない兵士には、あんまり縁のない物だからかな。
「モルライト鉱石だね。パブロが扱っていた商品」
「魔力を蓄える性質があるんだっけ?」
そういえば昨日、ヒカリにそんな説明をしたっけ。小さい割に高価なものだから、パブロが持って逃げるために選んだのだろうな。
「どうしますか? やっぱり、兵隊さんたちに届けた方がいいでしょうか」
「別にいいんじゃない? せっかくだから貰っておけば? ライラちゃんも気に入ったみたいだし」
「そ、そうでしょうか」
「シャロ。これ、すごくきれいだよ?」
「そうですね。きれいですね……今回だけですよ?」
「わーい!」
リーンの提案戸惑った様子を見せたシャロだけど、結局はその通りにした。ライラが嬉しそうだから、いいかな。
パブロも捕縛されて、今度こそ事態は収束。そして結局、僕たちは今夜も教会に行くことに。おおっぴらに喜びはしないでも、子供たちのそばにはいてあげたかったから。
いつも教会を訪れている、いい人だった商人が裏で何をしていたか。聡い子はもしかしたら察したかもしれない。だから、放っておけなかった。
いつの間にか神父様も森から戻っていた。子供たちと一緒に、いつもと変わらない夕食を食べる。いつもと比べて、静かな食卓だった。




