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1-32 ケンタウロスとの決着

 もちろん戦いはまだ終わっていない。ヘテロヴィトの方を見る。


 ヘテロヴィトには疲労の色が見られた。味方は皆やられていて、新たにミーレスを作る力もなさそう。ルミナスの斬撃を必死に避けるだけ。


「ちっ! 逃げるのは癪だが……」


 焦りの混ざった言葉と共に、ヘテロヴィトは懐から何かを取り出した。液体の入った小瓶。そういえば奴らは、あれで異世界を行き来できるんだっけ。ルミナスもそれを見て表情を変えた。


「ちょっと! あなたも逃げる気!? 卑怯者!」

「俺も死にたくはないのでな」


 ヘテロヴィトは小瓶を振り上げ、地面に叩きつけようとした。しかしできなかった。

 一本の矢が空を裂く。正確に小瓶に当たり、彼の手からそれを弾き飛ばした。振り向けば、ライラが弓を構えているのが見えた。


「ちっ! だが!」


 小瓶はヘテロヴィトから離れた場所に落ちて、そこに黒い穴を作る。あれが異世界への入り口か。

 ヘテロヴィトは諦め悪く、そちらへ走ろうと試みた。けどルミナスが、そして僕たちが許すはずもなく。


「行かせないわ!」


 穴とヘテロヴィトの間を塞ぐように、リーンが躍り出る。ライラが歩いて接近しながら、ヘテロヴィトへと次々に矢を放つ。


 それは退路を立たれた半人半馬の怪物の体へと確実に刺さっていき、殺すには至らずとも確実に命を削った。それゆえ怪物は死の危機の前に狼狽え、判断力が落ちる。


 もはや彼は、この場から逃げることしか考えていない。だから逃げ道を断つ。ルミナスとリーンで二方向。シャロと目配せしつつ、ふたりでヘテロヴィトの両側面に立って四方を塞いだ。

 どこから突破すればいいか、怪物が迷った隙にルミナスが踏み込んだ。


「今度こそ! 死ね!」


 いつもより大きな剣を作り、人体と馬の接合部のあたりをかっさばいた。

 血と臓物が飛び散り、地面を赤く染める。ヘテロヴィトはよろめきながらも、なおも逃走を試みて、一番年下の僕なら勝機があるかもとこっちへ迫ってきた。


 咄嗟に構えるけど、その必要はなかった。接触する前に力尽きたのか、その巨大はひとりでに倒れた。消えゆく命を惜しむかのようにビクビクと痙攣するヘテロヴィトを、ルミナスが見下ろして言った。


「罪のない人を襲い、孤児を作ってきた罪。死んで償いなさい」


 すでに死にかけているヘテロヴィトの首に剣を刺し、とどめとした。




「ギル! 皆さん! 無事ですか!? お怪我は!?」


 神父様が駆け寄りながら尋ねてくる。その後ろにはライラもいた。無事ですと返事をすれば、元冒険者の強い男は安堵の表情を見せる。


「ヘテロヴィト、死んだ?」


 ライラが短く尋ねて、僕たちは再度馬の怪物を見下ろした。確かに死んでいる。勝った。


「うん! 死んだ! 殺した! わたしたち勝ったよ! えへへー!」

「うわっ!」


 ルミナスがライラの肩を抱き引き寄せたから、エルフの少女は驚いた声をあげた。


「ライラのおかげだよー。もちろん、ギルもシャロも! みんなで戦ったから、逃げられることなく勝てた!」


 ライラの小さな体を片手で抱えながら、僕にも抱きつこうとするルミナス。しかし、リーンがその前に立ちふさがった。


「あらー? ヒカリってば誰かの助力を忘れてないかしらー?」

「あー。うん。リーンもありがと。ほら、ハグ」

「素直でよろしい。みんなで勝ったんだからね。というわけでギルも! シャロも!」

「ちょ、ちょっと待ってリーン!」

「ひゃうっ!?」


 リーンが腕を一本ずつ使って、僕とシャロの体を抱き寄せながらルミナスにくっつく。五人で抱き合っている状態になるのかな。


「ねえギル。わたしたち、いいパーティーだよね?」

「うん。僕もそう思う」


 こちらに身を寄せながらささやくように尋ねた魔法少女に、心からそう返した。そうしたら彼女は笑顔になるし、僕はそんな彼女の表情が眩しくて好きだった。



 商人の護衛たちを、ライネスは連れてきた冒険者たちに命じてしっかりと縛り上げていた。その数ちょうど十人。もう勝てないと悟ったのか、それ以上抵抗する様子はない。


「これだけの数を相手して、人間は全員生け捕りにできた。こっち側に大怪我をした奴もいない。戦果としては上々だな。お前たちのおかげだ。謝礼は弾んでやるよ」


 冒険者パーティーの行方不明から始まる一連の事件の解決に、ライネスは上機嫌だった。


 捕縛した敵とヘテロヴィトの死骸を街に運ぶ仕事は残っているけど、それは街の兵士に手伝ってもらえると算段がついている。

 だからライネスは、街に戻って休んでいいと言ってくれた。事件解決の立役者を労いたい気持ちが強いのかも。お言葉に甘えさせてもらうことにした。実は結構疲れていたし。




 街に戻る途中、街の兵士に混ざって冒険者数人とすれ違った。ライネスの要請で手伝いに向かっているのだろう。彼らは僕の姿を見て、声をかけた。


「よう、異常者――」


 また罵られるのか。そう身構えた。けれど。


「――大活躍だったらしいな。見直した。これからは、どう呼べばいい?」

「すぐにくたばるとか言ってすまなかった」

「お前は一端の冒険者だ。落ちこぼれなんかじゃない」

「その仲間、大切にしろよ」


 そんな言葉をかけて、気恥ずかしいのか返事も聞かず、森の方へそそくさと行ってしまった。これは一体。


「やるじゃんギル。みんなに認められた。もうあの人たちは、ギルを馬鹿にしないよ」

「う、うん。でもすごいのは僕じゃなくてみんなの力で」

「それをまとめ上げたのはギルだよ。みんなギルの考えに従ったから勝てた。だから、ギルはすごい。あの人たちもよくわかっている」


 昨夜も言われたこと。ヒカリたちに頼られている。

 さっき冒険者たちに褒められたことより、そっちの方が嬉しかった。

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