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1-28 買い物の時間

 買い物するにしてもリーンたちが戻ってから。

 予定通りちょうど昼頃に、リーンと神父様は教会に戻ってきた。ギルドマスターのライネスや、その他数人の冒険者も引き連れている。


「やっほーギル。ギルドマスター、協力してくれるって」

「ありがとうリーン。ライネスさんも、ありがとうございます」

「お前たちの言うことだからな。それに商人の護衛が馬の怪物に妙にこだわっていたらしいっていうのは、俺の方にも話が来ていた。辻褄は合う。神父様や、四等級の冒険者の話とあらば聞かないわけにはいかないからな」

「いえ。私もギルたちの話を聞いただけですので……」

「ふふふ。あたしの話は聞いて損はないわ。ギルドマスターさん!」


 少し申し訳なさそうな神父様と比べて、リーンは自信過剰気味に言い切った。ライネスは少しため息をつく。気持ちはわかる。


「とにかくだ、商人の護衛が森に潜んでるはずなんだろう? そいつらがこの街の冒険者に襲いかかれば、雇用主の商人をしょっ引く理由になる。昨日酒場で喧嘩しかけた冒険者も何人か連れてきた。面通しの準備はできてる」


 そういえば帯同してきた冒険者たちは、昨日酒場で見た顔な気がする。あの嫌な奴らに仕返しできるならと喜んでついてきたと、ライネスは笑いながら言った。



 とりあえず、これで準備はできた。後は頃合いを待つだけ。


「ではわたしたち、お買い物してきますので! ちょっと待っててくださいね!」

「お、おう……」


 必要な行為とはいえ、突飛な流れにライネスは戸惑った表情を見せた。女の子はよくわからない、とでも言いたげだ。



 教会から少し歩いた所。昨日も入った酒場や食堂なんかが並んでいる通りの一角に服屋がある。女の子向けの服ばかり扱っているお店だから、僕は入ったことがない。場所を知っていただけ。


「うあー。この服かわいい。ねえギル、似合うと思わない?」

「え? うん、ヒカリはかわいいよね。よく似合ってる」

「ほえっ!? あ、あはは。ギルにかわいいって言われた。えへへー」


 ちょっと赤面してうつむくヒカリ。なんかまずいこと言っちゃったかな。

 一方でリーンは、ちょっと不満そうな顔を見せた。


「ねえヒカリ。そんなヒラヒラな、かわいいだけの服でいいのかしら? もっと冒険者っぽい、機能的な服の方がよくない?」

「いいの。冒険者やる時は変身するから。買う服は普段着のかわいやつだけでいいのです」


 もっともな理屈で返しながら、気に入ったらしい服を体に当ててその場でくるりと一回転。楽しそうだ。


「そ、そうね。ヒカリの言うとおりね。……わかった好きにしなさい。ヒカリなら選択肢多そうだし。あたしはほら、胸のサイズの問題で服を選びにくいから」

「む……そりゃわたしは……成長期だけど……今に見てなさい」

「へえ。あなたの控えめなそれが、あたしを脅かすことなんてあるのかしらー?」

「ぐぬぬ……」


 よくわからないけれど、ヒカリとリーンの間に並々ならぬわだかまりがあるように見える。この手の仲間割れは良くないと思いつつ、止めるべきかどうかは少し迷ってしまった。


「放っておいた方がいいですよ。本気で喧嘩してるわけじゃないですから」


 ちょっとだけ呆れているという様子でシャロもそう言ったから、それに従うことに。確かにあのふたり、言い争いながらも仲は良さそうだし。



 ひとしきり言い合った後、リーンはヒカリにこの世界なりの服選びの助言なんかを始めて、本当に仲良さそうな雰囲気になった。

 そんな風にヒカリは服を数着購入して、店を出る。もう少し待ってもいいけれど、とりあえず教会に帰ろうかなんて話し合っていた、その時。


「あら。ギルじゃない。こんなところでなにを?」

「姉上」


 声をかけられた。フローティアだった。家族の中で唯一安心して話せる相手。近くに両親や兄上がいないかと一瞬だけ身構えるけれど、その心配はなさそうだった。


「姉上は、どうしてこんな所に?」

「ちょっと家で使う物を、いくつか買いにね」


 姉上が片手に抱えた布の袋の中に、羊皮紙や縄の束、その他日用品なんかが見えた。何に使うかは知らないけど、あの屋敷の中なら誰かが必要とするのはわかる。


「珍しいですね。いつもはそういうこと、使用人にさせていますよね」

「たまには自分で買いに行くのもいいわよ。ギルも買い物? そっちの方々は……」


 話題を変えるかのように、ヒカリたちに視線を向けた。そうだ、紹介しないと。


「ヒカリとシャロとライラ。冒険者としてのパーティーを組んでいます。リーンは覚えていますよね? 昨日こっちに帰ってきたそうです」

「そう。初めまして、ギルの姉で、フローティアといいます。よろしくおねがいします」


 名乗りながら少女たちを見る。そしてかすかに目を見開いた後、笑みを浮かべた。


「みんなかわいい子ね。あなたがヒカリちゃん? ギルのこと、よろしくね?」

「あ、はい。頑張ります」


 数歩近づき、ヒカリに手を差し出すフローティア。少し近すぎるかなという距離感にヒカリは戸惑いつつも、その手を握る。それから。


「ティア! 久しぶりね! 元気だった?」

「マリリーン。久しぶり。あなたこそ元気そうで良かったわ」

「もう。リーンって呼んでって、ずっと言ってたでしょう?」

「マリリーンはマリリーンよ。かわいい名前を縮めるなんてもったいない。それより」

「ほっ!?」


 フローティアは突如としてリーンに抱きつき、豊かな胸部に顔を埋めた。狼狽えるリーンに、姉はそのまま語りかける。


「戻ってきてくれて、本当に良かった。昔から冒険者になるって言ってたけど、本当にそうするなんて。しかも街を飛び出すなんて……危ない目に遭ってないか心配で」

「あー。それは……ごめん。心配かけたわね」


 同い年のふたりは幼馴染で、昔はよく一緒に遊んでいた。フローティアが、リーンの安否を気にしていたのも知っている。

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