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1-24 年上の幼馴染

 置いてけぼりになって困惑しているシャロとライラも交えて、店のテーブルにつく。そして改めてお互い自己紹介をした。


 異世界から来たというヒカリを、リーンはかなり胡散臭そうな目で見ていた。けれど僕含めて全員が肯定したから、仕方なく受け入れる様子。

 次はリーンについてだ。記憶の中のリーンは、もう少し頼もしくて、あと落ち着いた印象のお姉さんだったのだけど。


「ふっふっふ。旅に出て変わったの。おしとやかなだけじゃ冒険はできないってね!」

「確かに。それは一理ありますね」


 多分、この中で一番おしとやかなシャロが同意する。シャロはシャロで、これまでの冒険でそれなりに苦労を重ねてきたのだろう。


「旅で変わった、ねー。こんな軽いノリの、変な奴が冒険者としてやってけるの?」


 ヒカリは相変わらず、リーンに不審な目を向けている。


「リーンの、よんとうきゅうのちからは、ほんものだとおもうよ?」


 ライラはさっきから、銀色の身分証をずっと眺めていた。憧れてるのかな。


「そうかなー。それで、そんな大冒険者様はどうして、こんな街に戻ってきたの?」

「そんなの決まってるじゃない! ギルの十二歳の誕生日が来たからよ! 元のパーティーを抜けて、ギルとパーティーを組むために! と思ったのだけど……」


 僕たちの顔ぶれを見る。正確には僕以外の三人を。


「既にパーティーが出来てるみたいね。さすがギル。人を集めるのうまいのね」

「ううん。ヒカリたちが集まったのは偶然というか」

「偶然でも! わたしたちは既にパーティーとして完成されてるの! リーンだっけ? あんたのいる枠はないから! 帰れ!」

「ふふん。ヒカリだっけ? 帰るって言っても、ここがあたしの故郷なのです。ギルがここで冒険者やるとしたら、あたしは何があってもついていくからね!」

「シャロ。わたしたち、このままずっとギルといっしょにいるの?」

「ええっと。私たちは人探しの旅をしないといけないので、ずっと一緒というわけには」

「よし! じゃあやっぱり、ギルにはライラちゃん以外に高い等級の先輩冒険者がついてなきゃ駄目ね! 四等級のあたしみたいな! 姉のあたしみたいな!」

「勝手に姉を名乗るな!」

「まあまあみんな落ち着いて! それよりも!」

「それよりも?」


 このままでは言い争いが終わらないし、また喧嘩が始まるのかと周りの視線が痛かった。とりあえず話を逸らそうとしたら、みんなから視線を向けられた。



 だから、さっきからの疑念を口に出す。


「パブロさんの態度、変じゃなかった? それに護衛たちも」

「確かに。あの狼狽えようは気になりますね。それに喧嘩の原因も」


 真っ先に同意したのはシャロだった。さすが、物事をしっかり見ている。


「人を殺す野生の馬。人を食う馬。その存在を必死に否定していました。グルトップやヘテロヴィトの存在は知らないにしても、あんなにムキになって否定するものでしょうか」

「田舎者の戯言って見下してるんじゃないの? 商人の護衛って国中を回るから、自分がいろいろ見聞きしてきた物知りって思い込む馬鹿ができやすいの。……あたしだって、人と獣がくっついた怪物なんて言われても、見たことないから信じられないけど」


 ギルがいるって言うなら信じるけどね。笑顔でそう付け足したリーンを、ヒカリが睨んでいる。怖い。


「そうかもしれません。けれどどちらかと言えば、あの彼らは馬の怪物の存在を隠したがっているように見えました」

「つまり、あのひとたちは、ヘテロヴィトのことをしってるの?」

「恐らくですが……」


 その推測には思い当たりが多すぎる。パブロさんが護衛たちを諌めた際も、彼らは真っ先に馬について言及していた。パブロさんもそれを承知しているような口ぶりだった。

 それにパブロさんが教会で狼狽えたのも、行方不明の冒険者を馬の怪物から救ったと語った時だった。


 この街の住民は、今まで森に潜む馬の怪物について知らなかった。けれど今は噂にのぼり始めている。それを必死に否定したがるのなら、逆にパブロさんたちはその存在を知っていたのでは?


「怪しいわね。あの商人、何か裏がある。よし、今から調べに行きましょう!」

「どうやって」


 冷たい目で見ながら尋ねるヒカリに、自称頼れるお姉さんはふふんと笑いかける。


「今からパブロの泊まっている宿に行く。で、部屋の外で聞き耳を立てる。今の話を聞く限り、パブロと護衛は秘密を共有してる。だからさっきの騒ぎにしろ街の噂にしろ、対策を協議するはず。それを盗み聞きするの。さあ、急ぎましょう!」

「待ってよ! あの人が泊まってる宿を知ってるの!?」


 急いで会計をして店から出るリーンに、ヒカリが問いかける。人が泊まっている宿なんて、普通は誰も知らない。

 けれどリーンは自信がある様子。


「見当はついてる。あの商人はずっと、この街では同じ宿にしか泊まってこなかった。多分今も一緒」

「なんでそんなことがわかるのよ」

「あたしを誰だと思ってるの? マリリーン・ウェインライトよ!」

「うん……名前はわかったけど、それがどうしたの、マリリーン?」

「あ、その名前は野暮だからやめて。リーンって呼んで」

「いいから。続きを話してマリリーン」

「だから!」

「まあまあ。ヒカリ、ウェインライト商会はこの街を本拠地とする、大規模な商会なんだ」


 また喧嘩になりそうなふたりを制止する。リーンはその商会の会長の娘と説明すれば、ヒカリはそんな話も聞いた気がすると納得。続きの説明はリーンが引き継ぐ。


「パブロとあたしの家は商売敵。この街のパブロの顧客をなんとか奪おうと、お父さんはあれこれ考えてたわ。そのためにパブロの情報は集めてたらしいの。泊まる宿が同じっていうのも、昔偶然聞いた」

「なるほどね……」


 あんまりいい思い出じゃないという風にリーンは言った。そういう家の汚い部分も、リーンが街を飛び出して冒険者を志した理由のひとつなんだろうな。

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