1-23 四等級の冒険者
昨日のブドガルと一緒。この手の荒くれは、格下と思われる相手から侮辱されると極端に反発する。年下の女の子なんてその筆頭だ。
「てめぇ覚悟は出来てんだろうな!?」
護衛のひとりが声を上げながら女へ迫る。武器を抜かない冷静さはあったらしい。けど、女の方が上だった。
殴りかかってきた男の拳を避けながら両手で掴み、さらに引き寄せる。つんのめって体勢の崩れた男に、さらに足払いをかけて転倒させ、倒れた胴を踏みつけながら掴んだままの腕をひねる。
腕を決められた男は悲鳴をあげながら離してくれと叫ぶ。しかし女はそれを聞かず、代わりに高らかに声を張り上げた。
「あたしはリーン! 四等級の冒険者よ! あなたたちよりずっと上なの!」
同時に、懐から身分証を取り出し片手で掲げ上げた。銀色のカード。四等級なのは本当らしい。この街にこんな等級の冒険者はおらず、酒場の中にどよめきが起こった。
いや、でも。この人リーンって名乗った? まさか。
僕が人知れず動揺している間にも、リーンという名の女は周りを見回し、それからなぜか安堵した表情を見せた。
「よ、良かった。本当に上いなかった。いやー、田舎町だしそんな等級高い冒険者いるとは思ってなかったけどねー」
「ごとうきゅうなら、いるよー」
ライラが自分の身分証を掲げてリーンに見せる。
「おー! ちっちゃい子なのにすごい! でもあたしの方が上ね! というわけであなたたち! このあたしにひれ伏しなさい!」
「ふざけんじゃねえぞ女!」
どうやら彼女は、等級の高さで騒ぎを鎮めようと考えたらしい。商人の護衛もギルド所属の冒険者だった者が多いから、理屈はわかる。
けど、等級の低い相手を馬鹿にするやり方では、怒る奴は当然いる。
パブロさんの護衛たちが一斉に立ち上がり、リーンへ掴みかかろうとした。
「ヒカリ!」
「うん! みんなぶっ倒しちゃおう!」
「違う! 止めるの! 武器は抜かないこと!」
変身しようとしている魔法少女に声をかけてから、護衛集団の前に立つ。そして先頭の男に姿勢を低くして突進。お腹のあたりに組み付き、動きを止めようとした。
とはいえ向こうの方が年上で力もあった。多少動きは遅くできたけど、それだけだった。そして、それで十分だった。
その隙に変身完了したルミナスがリーンの前に立つ。そして光で大きな盾を作り上げた。もはや壁と言うべき大きさのそれで、なだれ込む男たちを止める。僕もその壁に押し付けられ、暖かな壁の感触を背中に受けつつ微力ながら人の波を押し返そうとする。
ルミナスもまた必死に壁を支えていて、少しの間押し合いが続いたその後で。
「いい加減にしないかお前たち!」
テーブルの上に飛び乗ったパブロさんが、手に持った椅子を床に叩きつけながら一括。先ほどとは違う強い口調に、護衛たちの動きも止まった。
「揃いも揃って、馬鹿馬鹿しい理由で暴れて。私の顔に泥を塗る気か!」
「しかし会長。馬の怪物が」
「わかっている。だか、今日のところは帰れ。あとは私に任せろ」
その言葉で、男たちは未練があるように店内を睨みながらも、店から出ていった。リーンに動きを封じられていた男も解放され、よろめきながら出ていく。
「皆様。醜態をお見せしました。大変申し訳ございません。彼らにはきつく言って聞かせるので、ご容赦願います。私はしばらく街に滞在いたしますので、今夜のことで損害が出た方は私にお申し付けくださいませ」
パブロさんは、再度丁寧な謝罪をして店を出た。とりあえず騒ぎは収まった。あの護衛と向き合い口論していた冒険者も、やれやれといった様子で飲み直しはじめた。
そして僕たちはといえば。
「ギル! 魔力ちょうだい!」
「うわっ! いいけどいきなりは」
大きな壁を作って魔力の消費が大きかったのか、変身解除したヒカリが僕に寄り添い手を握る。魔力を吸われるとちょっと疲れるのだけど、それは別にいい。
気にするべきは、ヒカリが口にした名前を耳にして、ある人物がそれに食いついたことだ。
「ギル? 今あなた、ギルって言った!?」
「あー……」
食事に戻ろうとしていたリーンが、こっちに猛然と迫ってくる。そしてヒカリを突き飛ばして強引に離れさせ、僕の肩をがしりと掴む。
「あー! ほんと! 本当にギルね! わー。久しぶり! 大きくなったわね!」
「う、うん。ええっと。久しぶり、リーン」
「くー! そう! リーンお姉ちゃんです! さあ! もっと言って! あたしのことお姉ちゃんって呼んで!」
「ちょっと! なにするの! てかあんた、ギルのなんなの!?」
突き飛ばされたヒカリが立ち上がって抗議する。けどリーンは意に介さない。
「あら? あなたこそ誰かしら? あたしのギルに変な虫が付いてるから払っただけなのに、そんなに怒ることないじゃない」
「誰が虫ですって!?」
「あなたよあなた。ずいぶん胸元が貧相なあなたのことよ!」
「……よしわかった。喧嘩売ってるんだったら買ってあげる。表に出なさい」
「ふたりとも落ち着いて。あのねヒカリ。この前、目標にしている冒険者がいるって説明したよね」
このままでは一向に終わらない言い争いに、僕は仕方なく口を挟む。
「あー。うん。なんだっけ。長い黒髪がきれいで、姉みたいな人って……」
僕が言った特徴を思い出しながらリーンを見る。黒い長髪。自分をお姉ちゃんと呼んだ。
「ま、まままままさか!? こいつがギルの憧れ!?」
「なになにー? ギルってば今もあたしのこと目標にしてるの!? お姉ちゃん嬉しい!」
「むぐっ!?」
感極まった様子で僕に抱きつくリーンと、それを引き剥がそうとするヒカリ。リーンの胸が顔を圧迫して、息ができない。苦しい。
ヒカリの思いはわかる。僕だって困惑している。憧れていたリーンお姉ちゃんって、本当にこんな人だったっけ。