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1-21 慈善活動

「あいにく私どもは、武器の類はあまり扱っておりませんので、お役に立てる商品は限られます。ルベルノさんの武器を入荷できれば良いのですが」


 この街になぜか住んでいるドワーフの名前を口にするパブロさん。あの人の作った武器は商品価値が高い。ドワーフのいない他の街に持っていけば、さらなる値段で売れる。


「あの人、街の武器屋にしか卸さないそうですからね」

「高値で買い取ると言っても、了承してくれません。武器でなくても装飾品なんかを作って貰えれば、高く売れますのに。ドワーフが作った物を欲しがる顧客は多いので」

「そういうものですか。ルベルノさんにも、なにかこだわりがあるのでしょうね」


 よくわからないけれど。そしてパブロさんとしても、僕への売り込みの方が大事そうだった。


「さて、それ以外の商品だと何があるでしょうか。盾などの防具や杖は扱っておりますが、あれは儀礼や装飾用で実用性は薄いですし。ああ。モルライト鉱石で作った装備品なら」

「い、いえ。パブロさんの扱う商品なんて、どれも手が出ませんよ。稼ぎも少ないですし」


 ここぞとばかりに売り込みをするパブロさんを制止する。お金持ちを相手に商売する人だから、基本的に冒険者が払える金額ではない。パブロさんもいずれ機会があればと引き下がった。


「ギル。モルライトって?」


 隣のヒカリが、知らない言葉が気になったらしく尋ねてきた。


「採掘量の少ない希少な鉱石。魔力を貯める性質があるから、魔法道具の材料として使われたりする。魔法使いの冒険者も、たまに魔法道具を装備してるよ」

「ふうん」


 ヒカリはちらりとブレスレットに目を落とした。確かに、関連がありそうな気がした。


 パブロさんはヒカリの動作には気づかず、モルライト鉱石に興味を持ったことの方に目をつけたらしい。


「そちらのお嬢様はギルバート様のご友人ですか? モルライト鉱石に興味がおありなら――」


 僕の友達ならお金持ちとでも考えたのかな。けど、その売り込みは不意に断ち切られた。子供たちの方から泣き声が聞こえたから。

 なにかあったのか。喧嘩か、それとも誰か怪我をしたのか。すぐさま走っていった神父様に続いて、僕たちも声の方へ駆ける。


 女の子がひとり、顔を手で覆ってしゃくりあげていた。その前に立つライラが、狼狽えながらなだめている。他の子供たちも、周りで大丈夫だよとか、泣かないでと女の子に声をかけていた。

 ライラは僕たちが来たのを見て、慌てたように説明した。


「あのね、あのね。このこのおとうさんが、いきてるっておしえてあげたの。そうしたら、きゅうになきはじめて……」


 どうやら深刻な事態ではなさそう。僕たちが商人と話している間に、ライラは本当に子供たちと仲良くなった。そして、良かれと思ってさっきのことを教えたのだろう。

 お父さんは生きている。そう知って、女の子は嬉し泣きしてしまった。それだけ。


「かってにしゃべって、ごめんなさい……」

「大丈夫ですよ。ライラは立派なことをしました。偉いです」


 余計なことしたかもと、ライラはしゅんとしている。そんな彼女にシャロは優しく声をかけて頭を撫でた。


「ええっと。ギル。どういうことでしょうか。それに、この子は……?」

「あ、はい。説明します」


 そもそもこのために来たのに、なんの説明もできてない。というわけで、行方不明だった冒険者をひとり助け出せたことをようやく話せた。危険な馬の怪物との戦いも、神父様が心配しない程度に話しておいた。


「そうでしたか。それは、本当に良かった……」


 両手で菱形を作る、この宗教の祈りの仕草をしながら、神父様は静かに喜びを表す。死人が出たのは事実だから、彼らへの弔いの意味もあるのかも。それから、改めてシャロとライラの紹介をする。その途中でふと、ヒカリがパブロさんの方を見た。


「あれ? どうしたんです? 具合でも悪いんですか?」

「え? い、いえ。なんでもございませんよ。そうでしたか。そんなことが……」


 なぜかはわからないけど、動揺しているように見える。周囲の不思議そうな視線に、彼は取り繕うように説明をした。


「ただ、私の出る幕がなくなったと、そう思っただけです、はい。神父様とギルバート様なら、わかりますよね?」

「ええ。まあ……」

「ギル、どういうこと?」

「パブロさんは教会に預けられている、親を失った子供たちの里親を探す活動をしているんだ。国中を回る仕事をしてるし、人と会う機会も多いから」


 相変わらず不審な目を向けるヒカリの質問に答えた。

 もちろん、金銭の授受の無い完全な慈善活動。この手の善行をしている方が、お得意様のお金持ちから受けが良いって利点もあるだろうけど、それでも立派な行いだ。


「今日の訪問も、パブロさんが新しい里親を見つけたからなんですよ」


 神父様が穏やかに言う。そういえば執務室から、小さな女の子と一緒に出てきたっけ。あの子が里子に出されるってことか。


 ふうんと返事をしながら、ヒカリは頷きそれ以上何も言わなかった。けれど、パブロさんに向けた不審そうな目は戻らない。

 たしかに変だ。あの子の親が無事なら、素直に喜ぶものだろうに。自分の活動に関わることなら、何らかの感情を抱くのは自然なことだけど、動揺はしないはず。

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