表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/874

1-18 ヘテロヴィト

 ギルドに帰ると、まさかの生存者の登場にちょっとした騒ぎになった。


 彼は三日近く森の中に取り残され、まともな食事も取っていない。しかも足を折る怪我をしている。精神的にも肉体的にも疲労が激しい。とりあえず療養を受ける必要があった。

 ギルドの職員が彼を医務室まで連れて行った。一方僕たちは、ライネスに呼び出されて応接室で向かい合っている。


「あいつを連れて帰ってくれて、ありがとう。生きてるとは俺も思わなかった。彼からも詳しい話は聞くが、お前たちからも聞いておきたい。何があった?」


 それを調査し報告するのが依頼だったから、あったことは包み隠さず話した。ただ、僕はあの異様な姿の馬については知らない。ヒカリやシャロは知っているようだけど。



「あれはヘテロヴィトが使役する、ミーレスという尖兵です」

「ヘテロヴィト? ミーレス?」


 シャロが森でも口にした言葉。ライネスもその意味がわからず首を傾げた。ではそこから説明しますね、とシャロが姿勢を正す。


「ヘテロヴィトとは、古い言葉で"異なる咆哮"を意味します。動物学者の間では、奇妙な特性を示す動物群を指します。まず外見的な特徴ですが、二種の動物の体が融合、あるいは部分をつなぎ合わせたような姿をしています。その一方は必ず人間です」


 助けられたあの男は、馬の体から人間の体が生えていると言っていた。人間と、それとは異なる獣が合わさった怪物。故に異なる咆哮をあげる者。


「私が見た例ですと、獣の下半身に人間の上半身が生えていたり、人間の両手が鳥の翼になっていたり、人の体に獣の頭がついていたりしました」

「下半身は六匹の狼で、その上に人間の女の上半身がついているのは?」


 ヒカリに尋ねられ、シャロは少し考える様子を見せた。


「ええっと。その形状は見たことがありません。記録もされていないと思います。けれど、そんなヘテロヴィトがいてもおかしくはないでしょう。見たことがあるのですか?」

「うん。何度か。わたしが倒さなきゃいけない相手。話しを遮ってごめん。続きを」

「はい。獣の姿を持つ生物ですが、獣人種のように人と獣が混ざりあった姿というわけでもなく、ワーウルフのように狼と人の姿を自由に変化させられるわけでもありません。部分を見れば一般的な動物。しかし総体を見れば異常な融合をしている。そんな姿です」

「砂漠に住むっていうリザードマンとも違うのか?」


 ライネスがふと思いついた風に尋ねたけど、すぐに否定された。


「違います。リザードマンは、砂漠に住む者が独自の薬学と魔術によって環境に適するよう己を変えていった姿なので、彼らは種族で言えばれっきとした人間です」

「そ、そうなのか。知らなかった」

「そうなんですよ。でも興味深いですよね。日光から体を守るために――」

「シャロ。それよりもあの怪物のことを」

「す、すいません! やってしまいました」


 逸れかけた話を、ヒカリはかなり真剣な口調で戻した。赤面して俯いたシャロは説明を再開。


「獣人やワーウルフや、もちろん人間などの種族と、ヘテロヴィトには大きな違いがあります。ある形態のヘテロヴィトの個体数は非常に少ないという点です。一体しか確認されていない例が多いです。当然交配なんてできませんし、そもそも何から産まれてきたかも不明です。突如前触れなく、この世界に現れるようです」

「えっと。つまり?」

「子孫を残せません。ある動物学者が、牛の雄と雌のヘテロヴィトの交配を試みたことがあるそうですが、うまくいかなかったそうです。今生きているそのヘテロヴィトが死ねば、それで終わり。種の存続を目指すという生物の基本原則に一致していません」


 なんだか難しい話になってきたけれど、なんとなくわかる。人は婚約をして子供を生んで命をつないでいくもの。けどヘテロヴィトは、それができない。


「ヘテロヴィトの生態の特異な点としてもうひとつ。彼らはミーレスと呼ばれる尖兵を使役します。先程私たちが戦った相手です」


 さっきの馬。馬だとわかる姿をしているけれど、ひと目見て異様ともわかる。触手と呼ばれていた細長い物を伸ばしてくる。


「ヘテロヴィトはミーレスを、何らかの方法で呼び出します。生み出すと言っても良いですが、普通の生物の繁殖とは当然意味が違います。ミーレスがどう生まれるのかも不明です」



「一体どうなってるんだ。それは本当に生物なのか?」


 普通じゃありえない生態に、ライネスは椅子にもたれながら頭を抱える。僕も同じだ。そんな生き物がいるとは思えない。

 けどヘテロヴィトそのものはともかく、異形の尖兵はたしかに見た。だからシャロの言うことは信じないといけない。

 僕以外のパーティー全員が信じているようだし。


「ねえシャロ。ひとつ質問。そのヘテロヴィトってわたしの世界にも発生するものなの? まあ、いたんだけど」


 ヒカリから尋ねられて、シャロは少し暗い表情を見せた。けれど沈黙はしない。


「ヒカリさんの世界で奴らが自然発生するかはわかりません。しかし、ヘテロヴィトが違う世界と行き来することが出来るのは事実です」

「それは、ヘテロヴィトの能力で?」

「いいえ。奴らを支援する組織があるんです。"咆哮に耳を傾ける者の同盟"……長いので、咆哮同盟と本人たちも呼んでいますけれど」

「咆哮同盟……」

「ヘテロヴィトを生命の進化した姿と信仰する者の集団です。彼らは一種の魔術により、ヘテロヴィトを違う世界へ行き来させています。ヒカリさんの世界が、その異世界ということでしょうね」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
面白ければクリックお願いします。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
[一言] また読ませていただきました! 生物としての作り込まれた描写だったりヘテロヴィトの異様さがよく伝わりました。 ヒカリの事情とも被るようで、ますます気になります! これからも読み進めていきますね…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ