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1-15 四等級の依頼

 屠殺場の床に横たわる金の毛並みの馬、グルトップに手を伸ばして優しく撫でるシャロ。そっか。珍しい動物だったんだ。


「すいません。そんな貴重なものとは知らないで殺してしまって」

「いえ。気にしないでください、ヒカリさん。この馬のせいで犠牲者が出ていたそうですから。でも本当は、そんなに気性の荒い馬ではないんです。何かの原因で、死にものぐるいで外敵の排除を試みるようになったのだと思います」

「ブドガルの言うことを信じるに、奴らはこの馬にちょっかいを出したそうだ。珍しい動物みたいだから捕まえて高く売ろうってな」


 ライネスが説明を引き継ぐ。欲を出した結果、返り討ちに遭い四人中三人が死んだ。本来ならおとなしいはずのこの馬が、なぜか必死で抵抗した。


「その原因ってなんですか?」

「わからん!」


 堂々と言い切るギルドマスター。わからないのに、なんで得意げなんだろう。その疑問の答えは、本人からすぐに明かされた。


「それを、お前たちに調べてもらおうと思う!」


 だから、すぐに明らかなるだろうから、こうも楽観的なのかな。



 詳しく話を聞く。昨日のブドガルが受けた依頼は達成されていない。例の消えた冒険者の消息も未だ不明。行方不明の原因はこの馬かもしれないけれど、それもはっきりしない。

 だから引き続き調査をする必要がある。元の引受人であるブドガルのパーティーが全員死ぬか冒険者登録を剥奪されたため、別の誰かを行かせることになる。


「だが問題がある。五等級の奴がしくじったから、依頼の等級を上げなきゃならん。低い奴らに行かせて死なせるわけにはいかねえからな。五等級で駄目なら四等級が妥当だ」

「でもこの街には」

「そうだ。この依頼を受けられる冒険者はいない」


 ブドガルは、あれでも街に定住している冒険者の中では最高等級だった。その依頼を受けられる五等級以上の冒険者は、今この街にはいない。旅をしている高い等級の冒険者が、たまたまこの街に来たとなれば話は別だけど。


 そうか。旅の冒険者か。


「もしかしてシャロさんが?」

「い、いえ! 私は九等級です。全然大した冒険者じゃないです! すごいのはライラの方です……」


 名前が出た途端、恐れ多いとばかりに手を振って否定するシャロ。彼女が示したのは、僕たちの話しを黙って聞いていた少女で。


「ライラはこう見えて、五等級の経験豊富な冒険者なんです」

「えへへ。シャロ、もっとほめて」


 ライラは嬉しそうにシャロにすり寄る。シャロが紹介した通りの、経験豊富な冒険者にはちょっと見えない。


「えー? 嘘だー。どう見ても小学生くらいのちっちゃい子じゃん」

「ちょっとヒカリ」


 それはヒカリも同じだったようで、ライラに向かってちょっと失礼な言い方をする。言われたライラは、ショウガクセイなる言葉の意味がわからないのか首をかしげただけ。僕にもよくわからない。

 そしてシャロは、クスクスと笑った。


「いいんです。皆さん最初はそう思いますよね。でもライラ、実はハイエルフなんです。こう見えて、私の百倍ぐらい生きてるんですよ」

「わたし、せんさいぐらいだよ?」

「え……うそ。年上? ていうか千歳? 本当に?」

「ハイエルフ……話には聞いてたけど、初めて見た」

「えへへ。すごいでしょー」


 驚く僕たちを見て、ハイエルフのライラは得意げな顔をする。その仕草は、見た目の印象にふさわしい子供っぽさ。けどライラの耳をよく見れば、人間の物とは明らかに異なる形をしていた。細長く、先が尖っている。エルフに顕著な特徴だ。



 エルフは森に住む長命種族で、人間の社会と関わるのは珍しい。特にハイエルフは、エルフの中でも希少な種族。ハイエルフが人の街を歩いているなんて、滅多にない。

 実際の、ライラの冒険者としての活動期間は知らない。けどハイエルフであれば、それくらいの等級に達していてもおかしくはないか。


「依頼自体は、ライラがいるから受けられます。とはいえ相手が何者かわかりません。それに私たちは、ここの森に不慣れです。なので、おふたりに案内をお願いしたいのです」

「そういうことだ。もちろん報酬は出すぞ」

「わかりました、お受けします」


 ギルドからの依頼、しかも四等級。もらえる報酬も高いものになるだろう。その分危険はつきまとうけれど、やる価値はある。ライネスも返事を聞いて満足げに頷いた。


「そう言ってくれると思った。だが死ぬなよ? 正直、お前がギルドに入るって知った時はかなり驚いたし、面倒だと身構えたさ。だがお前とその嬢ちゃんは意外とやれるらしい。……これ以上冒険者を失うのは、この街にとっての損失だ。だから死ぬな」

「はい、わかりました」


 異常者だから、誰も僕を冒険者として引き受けるのにいい顔をしないだろう。けれどヒカリのおかげで、誰かに認めてもらえた。

 元より死ぬ気などない。憧れのあの人のような、立派な冒険者になるのだから。



 シャロとライラをパーティーに入れる手続きをしてから、森へ向かう。ヒカリは変身してルミナスへと変わり、その光景を初めて見るふたりを驚かせた。


「す、すごいですね。ヒカリさん、なんだか変わった格好をしているとは思っていましたけど、そこからさらに姿が変わるなんて」

「そうかな? セーラー服ってそんなに変かな……」


 パーティーなのだからお互いに敬語はやめようって話になったけど、シャロのこの口調は身に染み付いて直らないと言われた。それなら仕方ないか。


 一方のライラは、ルミナスの姿を見て目を輝かせている。


「すっごく、きれい」

「えへへー。そっか、きれいかー。わたしも、この格好好きだよー。ありがとうライラちゃん」


 喜びながら、ライラの頭を撫でるルミナス。ものすごい年上相手なのに、小さな子供みたいな接し方をしている。見た目だけなら自然な光景に見えるけど。


 街から森へ向かう間に、お互いのことを改めて話した。僕の体質のことや、ヒカリが異世界から来たことを。ヒカリの出身についてシャロは驚いたけれど、信じたらしい。疑うよりは興味が先行しているように見えた。

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