1-13 ギルドマスター
カウンターの件は少しだけ注意を受けたけど、元はと言えばブドガルが悪いということで特にお咎めはなかった。
問題なのはブドガルの方。他の冒険者を捨て石にして逃げた挙げ句、その冒険者を自らの手で殺そうとしたのだから。
この街のギルドの責任者、ギルドマスターに呼び出されて事情を聞かれた。森でなにがあったのか。あの馬はなんだったのか。それから、そもそもルミナスは何なのか。
少し迷ったけど、全部に正直に答えることにした。ギルドマスターは国から認可を受けた冒険者しか就任できず、みんな人格者。きっと悪いようにはならないはず。
「つまりなにか。そこの新米冒険者は、違う世界からやってきた人間で、その世界の特殊な魔法を使えると? そしてブドガルや、奴を殺しかけた怪物みたいな馬を倒したと?」
「ええ。違う世界から人が来るのは、稀にあるそうです。神父様が言ってました」
「神父様か……」
ギルドマスターは唸るように言った。
この街で生まれ育って、冒険者一筋で三十年ほど。初老の男がこの街のギルドマスター。名はライネス。ギルド内の応接室で、並んで座る僕とヒカリに対面しながら質問をした。
ずるいとは思いつつ、神父様の名前を使わせてもらった。街の人たちから慕われている神父様の言うことを無碍に扱うのは難しい。
「にわかには信じがたいが、実際にブドガルが負けたのは事実だ。あの金色の馬については俺もわからないが、本気で襲いかかって来たら勝つのは難しいってのは、俺にもわかる」
初老の男は腕を組んで考える様子を見せる。その時、応接室の扉が開いてギルドの職員が入ってきた。ライネスになにか耳打ちする。
「そうか。わかった。ご苦労。……ギル。森のお前たちが言った通りの場所で、遺体がひとつと首がひとつ見つかった。首の持ち主ともうひとりの遺体は、森の奥にあるってことでいいんだな?」
「それは見てないので何とも。でも、たぶんそうだと思います」
ギルド職員と数人の冒険者を派遣して、馬が出没した現場を調べたらしい。
本当はもっと奥まで調べるべきなのだろうけど、そこに何があるかはわからない。そろそろ日が落ちる時間帯だし、この街で一番腕の立つ冒険者は拘束されている。
ライネスはもうしばらく考えていたけど、やがて深く頷いた。
「わかった。お前たちの話を信じる。一応ブドガルにも話は訊くが、あいつには処分を下す。冒険者資格の永久剥奪と十年間の強制労働って所が妥当か?」
「いえ。それは僕に訊かれましても……」
「それもそうだな!」
冒険者間で、手合わせではなく殺害なんかの加害を意図した私闘を挑むことは御法度。その規則は知っている。その他、森の中での行為や嘘をついたことへの処分も含む。
はっはと笑うライネスを見て、とりあえず僕たちにお咎めは無いと悟る。本当に良かった。冒険者生活の、最初の日から躓くわけにはいかないのだから。
解放されてギルドから出た時は、空は暗くなり始めていた。
「なんか、戦いよりもさっきのお話の方が疲れたねー」
「そうだね。でも報酬を貰えてよかったよ」
気持ち良さそうに伸びをするヒカリを見ながら、貨幣の入った袋の重さを確かめる。少しずるいことしたけど、狼の鼻十個で群れの討伐という依頼は果たされたと認められた。
それから依頼の範囲外だけど、あの馬を退治したことへの報酬も一部支払われた。狼十頭よりもこっちの方が高かった。両方合わせて金貨三枚。この街でしばらくは衣食住に困らない金額だ。初日の稼ぎとしては十分すぎる。
「どうする? 今夜は宿に泊まる? ほとんどの冒険者はみんなそうしてるけど」
例外は、自分の家や家族を持っている冒険者ぐらい。僕たちは宿に泊まるって選択肢以外にないはず。
「なるほど。でも、宿ってお金かからない? 昨日みたいに教会に行けばタダじゃん」
「そうだけど、神父様にあんまり迷惑かけたくないし……」
「じゃあこういうのは? 昨日泊めてくれたお礼をしに行くの。美味しいものたくさん買ってきて、神父さんや子供たちと一緒に食べるの。わたしたちの初めての仕事が成功したパーティーって言ってもいいかな? ねえ、どうかな!?」
目を爛々と輝かせて提案したヒカリに、ちょっとだけ考える。神父様にお礼は言いたい。それに、今日のことを報告したい気持ちもある。
「わかった。今日だけだよ? 明日からは、ちゃんと宿に泊まるからね?」
「やった! よし行こう! お店ってどこにあるの? この世界の美味しいものってなに?」
ヒカリは僕の手を引いて、どこに行けばいいかもわからないのに先を急いだ。




