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2-43 伊達男の正体

 男の本名は知らない。

 とりあえず伊達男って呼んでいるそいつが、フレアと親しげに話していた。


「そうか。急にいなくなったから心配したんだよ。何があったか教えてくれないか? 大丈夫、僕はフレアちゃんの兄になるんだよ? 家族なんだ」

「ええっと。それは……そうだけど……」


 伊達男の押しにフレアは戸惑っている。けど、知らない間柄でもなさそう。


 それに兄になるって、どういうことだ?


「あ。フレアの姉の婚約者なんだ」

「え? ギル、それどういう」

「領主様が言ってたでしょ? フレアの姉が、司政官の息子と婚約してたって。それがあの伊達男。だからフレアにとっては義兄になる」


 なんでそんな男が冒険者をやってるのかは知らない。

 おおかた、金持ちの道楽とかだろう。


 女と見れば口説こうとする性格から考えると、女あさりが目的かな上流階級でそんな遊びをすると角が立つ。だから下々の者である冒険者を相手にするとかだ。


 権力者の息子だから、いずれ街の要職につくだろうから、城での取り調べも特別で僕たちとは別。

 たぶん早々に帰されたのだろう。


 実の父である司政官は起こった出来事やルミナスに興味を持ったから、息子ではなくこっちに対面した。

 というかこの手の取り調べで、親に担当させるのはあまりないか。


 元々良くなかったあの男の印象は今や最悪。けど、問題はそこじゃない。


 伊達男がフレアと接触したのは、偶然じゃないはず。


 あの司政官は謹慎になったけど、なんとか状況を好転させようと考えていたのだろう。

 だから自由に動ける息子に指示を出した。


 たぶん伊達男は、僕たちを密かに尾行していたのだろう。そして接触を図ってくるフレアを見つけた。


 行方不明の将来の妹の姿を見て不審に思ったのか、それとも彼女が魔法少女であることを何らかの方法で知っていたのか。

 今回の事件に関係があると考えて尾行の対象にした。


 そして今、フレアの様子からしてこの屠殺場が鍵を握ると考えて、フレアに接触した。

 その推測は正解だ。だけどこの軽薄で頭の悪そうな男が、この場で慎重な行動を取るとは思わない。


 司政官の息子として、なにか手柄を上げて父の名を回復させるよう命じられているのかな?

 それに彼自身、冒険者としての胸踊るような武勇伝を求めているのかも。


 それがどう動くかといえば。


「そうか。言えないか。だったら仕方ない。けど安心して。僕がフレアちゃんの悩みは全部解決してあげる。この扉の向こうに、厄介な相手がいるんでしょう?」


 フレアが成長した時に手を出すつもりなのか、将来の義妹にも色目を使いながら、伊達男は軽薄な笑みと共に剣を抜く。


「やめろ! 不用意に中に入ると危ない!」


 僕は咄嗟に出て、伊達男を止めるべく駆ける。


「ライトオン! ルミナス!」


 背後で、飛び道具による阻止を試みようとヒカリが変身する音が聞こえた。ライラだって弓を構えているだろう。


 だけど伊達男はフレアと同じ、扉の前に立っていた。

 僕の姿を把握する前に、彼は剣を振り下ろして扉の取っ手を破壊。そのまま体重をかけながら扉に体当たりして中に入ってしまった。


 その次の瞬間。


「ごはっ!?」


 男の声。

 状況から見て、どう考えても伊達男のもの。


 次の瞬間、扉から牛が飛び出てきた。角が一本だけ額から生えている。明らかにミーレスだ。


 さっきの悲鳴は、伊達男にそのミーレスが激突した時のもの。

 角が生えた牛が正面から突進したわけで、角は伊達男の胴をまっすぐ貫いていた。

 激突の衝撃自体も相当なものだろう。内蔵を破裂させる勢いで、間違いなく致命傷だ。血がドバドバ流れて、石畳を赤く染めている。


 軒先で堂々と会話していたんだ。中の人間に気づかれるに決まってる。中に侵入しようとしたら、待ち構えて阻止されるに決まっている。


 中でヘテロヴィトが迎撃の準備をしてたんだ。


「周囲の住民に避難を指示してください! 大規模な戦闘が起こります! 急いでください! 早く!」


 シャロが、後ろにつけていた城の職員に叫ぶ。

 そう。既に戦闘は始まっている。敵の姿は見えないけど。




「ひいっ!?」


 目の前で知った人間が死体に変わるのを見て、フレアは怯えた声を上げた。

 事態に対処しようと考える暇もないらしい。


 牛のミーレスは伊達男の死体を角に刺したまま、不自由な視界で今度はフレアに狙いを定めたようだ。


 僕は動けないフレアの手を引いて、迫ってきた牛の攻撃を避けさせる。


 その瞬間に、フレアのブレスレットの輝きが増すのが見えた。今はそれどころじゃないけど。


「ルミナス!」

「わかってる!」


 ルミナスが作り出した光の矢がミーレスに何本も刺さる。

 伊達男の遺体も巻き添えになったけど緊急事態だ。仕方ない。


 ミーレスは絶命したけど、建物の中にはまだ本命のヘテロヴィトがいる。そしてこっちを迎撃する体勢をとってるはず。


「ギル。これを中に投げて」


 ルミナスが光る球体を投げてよこした。


「ウニ?」


 そう尋ねながら、開いた扉の中に放り込む。何が起こるのか覗こうとして。


「駄目。見たら目が潰れる。閃光弾だから」


 ルミナスは僕の体を引き寄せて、胸に抱きしめた。柔らかい感触がする。

 リーンが怒ってる気がする。


 いや、見ないでって言うならそうするけど、抱きしめる意味はなんだろう。というか、せんこーだんって何?


 ヒカリが放ったそれの正体はなんとなくわかった。

 建物の中から悲鳴が聞こえる。たぶん傷を負ったのではなく、強い光を見せられて目が眩んだとか。

 これまで何度かやっていた光による目くらましを、飛び道具として使ったのがさっきの球体。


「いつまで抱いてるの! ルミナス、踏み込むわよ!」

「はいはい。わたしが先頭ね。ライラ、ヘテロヴィトが怯んでたら、頭を射抜いて殺しちゃって!」

「うん! まかせて!」


 物騒な内容を楽しそうに話しながら、光の盾を作り一気に建物内に踏み込む。


 敵からの攻撃はなかった。僕たちもルミナスの後に続く。そして怪物の姿を見た。


 人間の体に牛の頭がついている。

 体は筋骨隆々の男のもの。頭の牛も、濃い茶色の雄々しい形相。

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