第一夜
こんな夢を見た。
学校の教室。自分は黒板の前に立っていた。向いている机のほうには人間じみた何かが座っている。ゆらめく手足でこちらを指さしている。
人間ではない。自分は直感的にそう思った。これは自分と同じ人間ではなく、別の何かであると。何かが違って、自分はここで一人立っているのだと。
それらは灰皿のようなものを机の上に置いて、タバコを吸っていた。窓は空いていないから、その煙が充満してよりそれらの輪郭をぼやけさせていた。それらはたまに灰皿をこちらに投げてきたり、たばこそのものを自分に押し付けてきたりした。熱さや痛みを感じようとしたが、もう体は傷だらけで何が何だかわからなかった。
煙の隙間に窓のほうを見ると、外は教室とは打って変わって快晴だった。学校らしく子供の遊ぶ声、さらさらとささめく木の葉の音がした。周りはバラックのような粗末な平屋建ての建物で埋め尽くされている。見れば校舎自体も傾きかけたぼろ屋だった。
外の様子をうらやましく思いながら、目を一度閉じようとした。でも閉じられなかった。何度か試してみてもうまくいかなくて、あきらめてまた目の前の地獄のような教室を見つめなおした。
煙が目をくすぐる。痛いので閉じようとしたがそれはさっき無理だったことを思い出す。
「どうして私はここに立っているのですか」
自分はどうしても分からなくて、返事など期待できないとわかっていても問うた。そしたら意外や意外、人間じみたものはやけにそこだけ人間にそっくりな口を開いて、
「お前が人間ではないからだ」
と答えたではないか。自分は再び問うた。
「いつまで立っていればいいのですか」
口が再び動く。
「お前そんなにしゃべれるのか」
他も口を開く。赤黒い口腔が見える。
「なぜしゃべれるのだ」
質問に答えてもらっていないことなどすっかり忘れ、自分は答えた。
「人間だからです。人間だからしゃべります。」
それらがどよめく。ありえないという風に煙草の煙を頻繁に吐く。
「どうしたのですか。人間でないのはあなた方のほうではありませんですか。何を騒いでいるのですか。」
不安になって周りを見回すと、一つのそれが板を取り出した。板は鏡だった。きらきらと光って、そしてこちらを映し出す。
そこをのぞき込むとそこには黒板。に、浮き上がったような二つの目。目の下瞼は溶けてケロイド状に崩れていた。「お前が人間なものか」口が言う。
ああ、だから目が閉じられなかったんだ。