第七夜
こんな夢を見た。
自分は庭園で遊んでいた。今よりひどく幼いようで、楽しそうに駆ける体は身軽だった。季節は春のようで、暖かい日差しがさんさんと降り注いでいた。無限に広がっていそうな、ゆいいつ花が規則的に植えられていることだけがそれたる証拠である庭園。そこで自分はくるくると回ったりもしくはぱたり、と倒れたり、とにかく心の赴くままに踊っていた。
しばらく踊っていたら、何人かの動物が藪の陰から姿を現した。行儀のよいうさぎたちと、やんちゃなかわうそ、やさしそうな眼をした大きな猫と、それから少し怖そうな熊。自分はうさぎとかわうそを遊びに誘った。鬼ごっこや、花冠を作ったり、それから変なルールのボール遊び(輪になって順番にボールを回していって、たまに投げる、当たった人は負け)をしたりした。
猫と熊は遊ばずにこちらを優しそうな目で見ていた。ボール遊びの人数が足りなくて猫と熊を誘うと、のそりのそりとゆっくり歩いてきて輪の中に入ってくれた。
自分は幸せだった。この時間が永遠に続けばいいのにと思った。しぼりたてだ」と猫が言うリンゴジュースを口に含んで、ゆっくりと飲み込むその感覚が、口の周りをぬぐってくれる熊の手が、本物であればどれほどよかっただろうかと思った。
そう。
本物であればどれほどよかっただろう。
自分は急に気づいた。ここは夢だ。ただの願望だ。まやかしだ。偽物だ。朝になれば消えるのだ。
熊の手が薄れていく。リンゴジュースもコップも花も日差しも、見知った暗いものに変わっていく。それに伴って体も大きくなっていく。しっかと小さな中に収まっていた何かが、果てがないように膨張していく。輪郭がふやけていく。意識が混濁する。だが突然に、自分の体は輪郭を取り戻した。
首輪。手錠。足枷。それらが自分をここに縛り付けた。否、取り戻してくれた。ああ、自分はこうでなくてはいけないのだ。こうでなくては自分ではないのだ。自分なんて首輪と手錠と足枷のなかの、何かでしかない。檻の奥でうずくまっている、生きているかもわからない何かでしかない。
涙があふれた。嗚咽がくちからこぼれた。それでもリンゴジュースはおいしかった。紙パックなのに、猫が愛を持って作ってくれたわけでもないのに、それでもおいしいリンゴジュースだった。
そうだ、所詮ここも夢だ、寝ても夢だ、覚めても夢の中なのだ。
全部朝になって、消えてなくなってしまうのだ。
アラームの音。