第六夜
こんな夢を見た。
どこかから月を見ていた。地球からのようでもあったし、月から月の映像を見ているような奇妙な感じもあった。足元には雪によく似ているが冷たくはないものがしんしんと降り積もっている。満月の月だが、まわりには煌々と星々がきらめいている。違和感を抱かず、ただ月だけをずっと見ていた。
周りにはたくさんの人がいた。浅宵であるらしいその時間帯の道には、浴衣を着てうちわを持った人々が多くひしめいていた。しかし自分の周りには誰もいなかった。こちらに目さえ向けなかった。
自分も周りには目をくれず、ただテレビに映った映像のようにやけにはっきりとしている月を見ていた。やがて月が高く、闇が深くなるにつれ人々は消えて少なくなっていった。月はじわり、と欠けた。星はすこしも動かなかった。
すこし月がぼんやりとしたように感じた。ひどく陰鬱な闇が足元から雪のようなそれを溶かしていった。自分の足の周りにまとわりつくそれは怪しい人々を呼び寄せているようだった。何か言っているが、自分はそれに興味はなかった。闇がさらに深くなり、月がもう少し欠けるとその人々もどこかへ去っていった。自分の手の中にはどうやらもらったらしき装飾まみれの煙管があった。しかし吸う煙もつける火もなかったので、ただ空気を吸って吐いてみた。少し冷えた晩秋の味がした。
気づけば月はのこり半分くらいになっていた。けれどそれまでがひどく長かったので、残り大きさは半分、つまり四分の一でも大して心配することはないだろうと思った。足が疲れたので少しだけ座り込んだら、肩から温度のない粉雪がさらさらと落ちて光った。地面は硬いもので覆われていて、満月であったころのように草や泥まみれではなく安心して座ることができた。
何でもないようにずっと、代わり映えもしない、減らない月を見ていた。何でもないようではあったが自分は寂しかったようだった。ふっと目を落として袖を見れば何度も涙をぬぐった跡があった。しかしそれははるか昔のもので、自分は「ああ、もしかしたら寂しかったのかもしれない」としか思えなかった。寂しかったのかもしれない。それを思い出せないほど、思い出したとて二度と自分のものにはできないほど、自分は年を取ってしまっていた。
月を見るのに疲れて、しばらく目を閉じていた。何刻か、もしくは何年か経ったときに隣で誰かの声がした。
目を細くあけると、長く待ちわびた太陽のように君が、