第四夜
こんな夢を見た。
扉が開く。自分は躊躇もなく奥へと歩みを進めていく。
ぼんやりと桃色のような、紫色のような霧のかかった狂った空間だった。現実でもないし、夢というにもおかしすぎる。でも違和感を持つことは無い。ただ、それはそういうものなのだ、と分かっていて、ただ歩いていた。
そのうち何かが見えてくる。窓から誰かが、自分のような気がする誰かが見えた。明らかに自分ではない。まるではるか昔の石器時代のような原始的な服装の小さな女の子だった。
小さな女の子…自分?は扉の前に立っていた。洞窟のような場所で、頼りない小さな赤色がちろちろと壁を照らしている。浅黒い頭に収まった良く回らない脳みそで、目の前にあるこの風景には似つかわしくない凝った装飾の真新しい扉は何か考える。良く回らない頭だが、よく目は見えるようだった。
その扉は揺れる炎に照らされて、おかしな怪物のように光っていた。周りの石質とは違う、真っ白なような、薄っすらと夕焼けるときの空の色をしているような異質な扉。不思議というにはあまりにも異常すぎた。しかし、危険性は感じさせない。
しばらくぼんやりと見つめていたが、物音に目をそらしたすきに扉は消えていた。母が自分を呼びに来る。自分は先ほどまであった扉のことなど忘れて、母の元へと歩いて行った。
場面飛んで、また扉の前。あれから何度か扉を見ていたようだった。でもそれが何か分からなくて、何をするともなくただ見つめていた。装飾は少しずつ変わっているような気がした。そのときは見ているうちに何となく、眠たくなって、炎の横の扉が見える位置で横になった。ここちよいまどろみのなかで、景色が見えた。既視感のある、夕の東の空の色のような霧がかかった、狂った空間。でもそこはまだずいぶんと清浄で、ただ怖い物、気を付けるべきものたちが並んでいるだけだった。
これじゃあつまらないわ。
誰かの声がした。自分。もしくは見知らぬ男。声はこの現状に満足していないようだった。これではつまらない。足りていない。そう思っていた。そして、自分に言った。
ねえ、もっと楽しくしようよ。
自分は同意した。そして声の主を確かめようとしたとき、ぱちりと目が覚めた。洞窟の仲間たちが集まっていた。扉を見つけて何やら騒いでいるようだった。離れたところで怯えているもの、意思疎通を図るもの、ひれ伏すもの。ばかみたいだわ、と自分は思った。頭がとても冴えていた。扉をじっと見つめる。そして理解する。その用途を。目的を。
「おばかさんたち」
自分は真っ直ぐ扉の方へ歩いて行った。大人たちが様子のおかしい私にひるむ。自分はそれらに目もくれず、ドアノブに手をかけてひねった。
「これは、こうするものでしょ」
奥に押す。蝶番がわずかにきしむ音がして、扉が開く。開いたところから何か奇妙な霧があふれ出して、洞窟内を満たしていった。炎が激しく燃え上がる。壁が真っ赤に照らされる。扉の奥がぼんやりと光って、そして急激に自分たちを飲み込み始めた。飲み込まれる感覚はない。人が消えていっているから、何かに食われているか飲み込まれているかしているのだろうと推測しただけだ。扉がどんどん近づいて、そしてついに中に吸い込まれた。
扉が閉まる。自分は気づくと元の場所に戻っている。目の前にまた扉がある。装飾はすこし焦げて、煤に黒く汚れていた。