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夢七夜  作者: ナギサ サトル
第二章
12/14

第五夜

 こんな夢を見た。

 自分は面会室の椅子に座っている。ガラス越しにうなだれた青年?少女?それとも老人?よくわからない人間と話している。

 向こうは警官に付き添われていて、後ろからにらみを利かせられている。ぎちぎちに体が縛られていて、椅子も大仰なものだ。目の前の人間は知らない顔だったが、何か重大な関係にあるという感覚があった。

 「やっちまったねえ」

 人間がかすれた声でつぶやいた。自分はうなずく。

 「あぁ、あぁ、悔しくてたまらないねえ、もっとやりたかった。もっともっと殺したかったよ。」

 人間は頭をぐるぐると回し、どちらかというと男性に近い嗄れ声でうわごとを言う。自分は狂っているとしか思えない相手の様子に、「こいつは駄目だ」と思いかける。あきらめて、予定の時間よりずっと早く切り上げようとしたが、人間がそれを引き留めた。

 「おい待てよ、どこに行くんだ。まだまだしゃべろうぜ。たくさんお前に言いたいことがあるんだよ。」

 「…まだ理性があったか」

 自分は少しだけ希望を取り戻して、またパイプ椅子に座りなおした。希望、何の希望だった?あまり定かではない。おそらく、事件を追っていたのかもしれない。別段自分は探偵でも刑事でもないのだが。

 「お前に言われたくはねぇよ、え?」

 「……。」

 人間がごきり、と首を鳴らしてこちらをにらみつける。長い前髪の隙間からのぞく顔はまつげが長く、自分はこいつは女性かもしれないな、と思った。

 自分は人間に質問をした。なんか、「家族はどうした」とか「趣味はあるか」とかなんとか。そんなたわいもないことを。人間はほとんどの質問に落ち着いて答えた。だが、一つだけ様子を変えた。

 「今、どんな暮らしを送っているんだ?」

 「…お前それマジで言ってるのか?」

 人間は急にまともな顔つきになってこちらをじっと見据えた。目を大きく見開いて、信じられないといった様子で言葉を絞り出す。

 「マジで、言ってんのか?お前が?」

 人間は先ほどの言葉をもう一度繰り返した。自分の質問に答えようとしない相手にいら立って、自分は冷たい視線を送った。人間はその視線をものともせず、逆に打ち勝とうとするようににらみ返してきた。

 「あぁあぁあぁあぁ!ずりぃなぁ!お前はそうやってだんまりか、いい加減にしてくれよ!

あぁあぁ、答えてやるよ!お前のせいでめちゃくちゃだ、もう少しで完成だったのに邪魔しやがって!お前のせいだ!」

 人間は大声でわめいた。つばを吐き散らして、ガラスに一度頭をぶつける。警官が静止に入るが、人間はそれを振り払って僕につかみかかろうとガラスを叩いた。

 「ふざけるな、ふざけるな!全部全部お前が…お前が!」

 ぎゃあぎゃあと子供のように騒ぎ立てる人間を見て、自分はだんだんいら立ってきた。確かに彼の言い分にも一理あるにはあるが、その怒りは逆上としか言いようがない。醜い怒りを単純にこちらにぶつけてくる人間に、自分はついに堪忍袋の緒が切れた。

 「いい加減にしろ!」

 自分でも驚くほどの怒声に応じて、自分の刃がガラスを貫く。人間はひどく驚きおびえた目をした。まさか反撃されるとは思ってなかったか?自分が手を出すばかりの人間は自分が殴られるのに弱い。一度分からせておいたほうがいい。

 鋭く、触れるだけで皮膚がはじけ飛ぶほどの刃。粉々に割れて砕け散るガラスの中を、まっすぐに人間へと向かっていく。しかし、それは人間が座っていた椅子から出たバリアのようなものに阻まれた。なんだこれ。わけわかんない。自分はその謎のバリアを砕こうと何度も刃を叩きつける。人間は恐怖に顔をゆがめていたが、どうやら安全らしいとわかると青ざめながら意地悪く口角を吊り上げた。

 「ははは、ざまあないな!今僕はこうして守られている!お前に手は出せない!ははは!」

 弱者のくせにこいつ何なんだ。警官が手元にあったリモコンを操作した。人間が笑いながら椅子ごと遠ざかっていく。あいつ逃げる気だ。自分の背後から警官が数名出てきて自分を取り押さえようとする。

 ムカついた。

 自分は人間のバリアを叩き続けながら、背中からまた刃を打ち出して警官たちを屠った。血の噴き出す音、小さな悲鳴。その感覚に愉悦を覚えながら、自分は部屋の隅に立っている警官に目を向けた。刃を伸ばしてリモコンを奪い、適当に操作する。腕ごとリモコンを持っていかれた警官が何か言うが、意味の分からない言語だ。よくわからないボタンを押しまくっていると、椅子が止まってバリアがぱちんとはじけた。人間が驚愕と絶望に悲鳴を上げる。一度は助かると思って、それが裏切られたときの顔。やはり最高だ。自分はそれを目に焼き付けて、ほんのわずかの同情から一気に首を刈り取った。サッカーボールのように頭がぽうんと飛んで、自分の足元に転がる。

 「お前お前お前お前お前お前…お前!ふざけるな…ふざけるな!あぁあぁあぁ…せっかく僕は生き残れたのに、僕までお前に殺されなくちゃいけないのか!ラッキーだったと思ったのに…!呪ってやる!地獄に落ちろ!」

 「お前らの魂悪魔に捧げて天国に行ってやるから待ってなよ」

 「ふざけるな…ふざけるなふざけるなぁ!」

 血をだらだら流しながらまだうるさくわめく頭を踏みつけて、自分はため息をついた。

 全く、とんだ逆恨みだ。私を怒らせたお前らが悪いと言うのに。


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