第一夜
こんな夢を見た。
河原、自分が河原にいる。何かしなければいけないことから逃げて、ただぼんやりと水を見ているらしかった。
季節は春。桜や蒲公英やその他、春らしい花がたくさん咲いていた。河原の石はどれも丸く、自分は水きりでもして遊ぼうかと考えていた。しかし石が何となく嫌いで、だから動かずにじっと体育座りで、水面だけを見つめていた。
見つめているうちに水面の奥に何かが見えることに気が付く。はじめはぼんやりと、しかし徐々にはっきりと像を結び始めたそれは、自分によく似た人間の姿だった。鳥瞰の視点でぴょこぴょこと愉快な活劇のように進むそれはとても面白く、自分は身を乗り出す。もっと見たい。そう思ったとき、風がぴゅうと吹いて映像は消えてしまった。
ちくしょう、いつもこうだと悔しがる。諦めてまた、やらなくてはいけないことへと戻っていく。
腰を上げかけたその時、水面が不自然に光った。「また見られる」という確信があって、自分はもう一度水面を覗き込んだ。確かにそこには自分が求めていたものがあった。自分によく似ているが、自分ではないものの楽しい日常劇。しかし、その時は何かがおかしかった。
偽自分は泣いていた。ぽろぽろ、ぽろぽろ、目からとめどなく涙をこぼしていた。たった一人で周りには誰もいないようだった。それを見ていると、自分も無性に哀しくなってきた。ひとつぶ、雫が落ちると、もう止まらなくなって、声を上げて泣いた。そして思った。そこに行きたい。彼女に会いたい。水面に手を伸ばしてみた。何かに気付いたように向こうも手を伸ばす。あと少しでお互いの手が触れ合う、といったその時、地蔵菩薩がやってきて、自分はまるで泣いてなどいなかったかのようにぱっと全て忘れて地蔵菩薩の方へ駆けていった。
あとは水面と蒲公英が揺れるだけ。ひゅうひゅう。ひゅうひゅう。