IV
「トヨキはねぇ、あたしを特別な名前で呼ぶのよ。
何ていうと思う? リョウちゃん、じゃないわよ、言っとくけど。
違うわよ。それはみぃだけ。みぃとあたしが、ふたりで会うときにだけ、こう呼ぶって約束でしょ。
そうよ。だから、みぃをみぃって呼ぶのもあたしだけよ。ちゃんと守ってるわよね。
それならいいのよ。
そうじゃなくて、それとおんなじように、トヨキはあたしを秘密の名前で呼ぶの。
教えないわよ。秘密だっていったでしょ。
あたしとふたりのときだけ、トヨキはあたしを秘密の名前で呼んで、あたしもそうするの。
そうよ。先生っていうと拗ねるんだもの。イヤみたいね。
トヨキにはねぇ、あたしは特別なの。
あたしが必要なの。
あたしとふたりのときだけ、安心できるんだわ。
そうよ、みんなの前じゃ、どっしり構えてなくちゃいけないもの。
みんなはそれでいいのよ。みぃたちはそれでいいの。
いいのよ。
それだけあたしが頼りにされてるってことだわ。
そう。
だから、あたしの前でくらい、わがまま言ったっていいのよ。
じゃないと、かわいそうでしょ。
トヨキだって疲れちゃうわ。
いいのよ……あたしとふたりのときくらい、苦しくなくいてほしいわ。
――うん? なぁに?
あら。なに、そうよ、当たり前じゃない。
あたし、みぃとふたりでいて、とっても安心するわよ。
みぃがいてくれてうれしいわ。
みぃがいてくれてよかったわ。
そうね。そうかもね。
それでもいいの。それでいいのよ。
トヨキがあたしで安心するように、あたしはみぃといて安心できるもの。
うまくいってるのよ。
大丈夫。そうよ。
みぃはいるかしら? 一緒にいて、安心できるひと。
あたし? ほかには?
そうね、そういうことにしておいてもいいわ。
やぁね、からかってるわけじゃないわよ。
いいのよ。ゆっくり見つけて頂戴。
見つかるわよ。
必ず見つけてね……」