II
「その靴、変だね。おかしい。
うぅん、みぃがおかしいんじゃない。ショーコの趣味が悪いんだね。
だって、そうでしょう? 右と左、別々になっちゃうんなら、最初から両方変えればいいんだ。
どうせ残りの靴から取ったんだよ。一つ取ったら、次の靴も別々になっちゃうじゃない。
ほら、おかしいよね? 馬鹿だなぁ、ショーコ。
――あぁ、ごめん。みぃ。みぃが悪いんじゃないんだ。みぃの悪口を言ったんじゃないよ。
気にしないで。泣かないで、ねぇ。
ショーコが悪いんだ。ショーコが来てから、みんな目茶苦茶になっちゃったんだ。
前はなんでもトヨキが持ってきてくれたよ。服だって、靴だって、壊れたらすぐ次のを探してきてくれた。なのにショーコったら、服は破れても着させるし、靴もボロボロになっても履かせるし、貧乏くさいよね。最悪だよ。
ショーコは知らないんだ。トヨキは何でもできるのに。いまショーコがやってること、ぜんぶ、トヨキとぼくたちで何でもやってきたじゃないか。
――うん。いらないね、ショーコ。
コータはくっついてってるけど。ママが恋しいんだね。馬鹿。似てるわけないのに。
コドモがいる歳じゃないもの。ぼくよりちょっと大人なだけだよ。
――何!? そんなの全然違わないよ!
ぼくだってすぐああなる。十年もいらない! 五年でいい!
そうだよ、みぃだってそうなんだよ! ぼくたち少ししか違わないんだから!
――でもトヨキはだめ。ぜったい、ぜったいにだめ。
トヨキはみぃなんか見てないもの。何? 悲しいの? 馬鹿じゃないの?
何泣いてるの。知らない。ずっと泣いてればいいよ。みぃが馬鹿だからじゃない。
泣きなよ。トヨキは全然、みぃなんか見てないからね。
ぼくを見てる。当たり前だよ。
みぃのことなんか見てない。
だからみぃも、トヨキのことを見なきゃいいんだよ。
みぃはもっと、別のとこを見なきゃだめだよ。コータでも、だれでも。トヨキが見るのはぼくだけなんだからさ。
トヨキはぼく以外見てないんだから」
リョウちゃんと手をつないで、わたしは泣きじゃくっていた。