I
理科室で、音楽室で、資料室で、リョウちゃんは色んな話をする。
リョウちゃんはすらっとしていて、細くて、そのくせ温かい。やさしくて、はかなくて、ときどき怖い。
わたしはリョウちゃんの話をきくのが好きで、リョウちゃんが誰より好きだった。
「みぃ、好きな人いる? 何よ、平気平気、内緒にするから。誰にも言わないわ。ねぇ、いる? 誰?
もう、そういう意味じゃなくてよ。わたしはトモダチでしょ? そういう意味じゃなくて、だから、彼として好きかってこと。
いないの? コータなんかいいんじゃないの。オミはちょっと子供すぎるでしょ、お節介だしさ。あ、何、オミの方がいいんだ? ま、オミのが顔はいいもんね。
え、何? 照れない照れない。いいじゃない、応援するよ、わたし。
――わたし?
そうねぇ、わたしは、やっぱりトヨキ先生かなぁ。あとは皆ホラ、ガキばっかりだしさ。
背高いし、かっこいいし……やっぱ、違うもん。
コータたちなんか及ばないってこと。あ、でも、みぃはあの中なら誰でもいいからね。年もそんなに違わないしさ。はは、何よぅ、いっそ二人でもいいじゃない。嫌ぁよ、わたし、背低い奴なんか。みぃはお似合いだけどさ。
そう、だからさ、わたしはトヨキ先生しかいないの。
でしょ? ――いい、みぃ、これは秘密よ。誰にも言っちゃだめだからね。
わたしも、みぃがオミを好きだってこと、誰にも言わないからさ。
内証よ。ここだけの秘密ね。
絶対? じゃぁ指切りしよう。嘘ついたら絶交だから。
――よし。もうこんな時間! みぃ、わたしより遅かったら、みぃの分もわたしが食べちゃうから。じゃぁね!」
リョウちゃんは完璧で、わたしの世界のすべてだった。