グラン入城
程なくして城門を携帯していた簡易入国証で通過し、グランへと入った。
ここからグラン城本塔へは一直線だ。
「面白い場所ね、ここ」
「さすが万物を司るだけありますね。見たことない魔道具がそこら中に配置されてます」
見渡すと穏やかなどこにでもあるような城下町を行き交う人々が生活を営んでいる風景が見て取れるが、街灯や水車、井戸など自国のものとは違う機械的な作りをしている。
生活用の魔道具でさえこのクオリティなら軍事用は一体どんな物なのだろうと考えながら本塔へ急いだ。
本塔へ着くと城下町とは雰囲気が一転、城の関係者だろう人々が慌ただしく駆け回っている。
とりあえず門番に案内されるまま奥の会議室であろう場所に通された。
「ワルトハーツ御一行到着です」
門番がそう言って中へと通してくれる。御一行って人数でもないよなと自嘲的に思ったがそこは触れないのが普通だろう。
「よくいらしてくれました、グラン城執務長のザガンと申します。ささ、こちらに」
ザガンに促されソファへと腰を下ろす。クラウは私の後ろへ立ったまま待機している。
「もうすぐ城主が来られますので今暫くお待ち下さい。」
ザガンはそう言うと紅茶の入ったカップと焼き菓子を目の前の机に置き、クラウとは反対側の位置に待機した。
紅茶のと焼き菓子の香ばしい香りに唆られ一口頂くことにする。我が家の紅茶程でないが良い葉を使っているのだろう、口に含むと高貴な香りが鼻を抜け気分を落ち着かせてくれる。焼き菓子もなかなかの味だ。
「お口に合いましたでしょうか」
「ええ、とても良いシェフをお雇でおられますね」
「お褒めの言葉ありがとうございます。実は私の趣味でお作りしているのですよ」
「それはまた良い趣味をお持ちで」
「年寄りの些細な楽しみですよ」
そうザガンは落ち着いた笑みで答えた。
割と本気でクラウにも習わせようかなと考えていると、何やら後ろから焦りの気配がした。どうやらクラウは何か察したみたいだ。咳払いさえ聞こえてくる始末。相変わらず料理は不得手なのだなとちょっと可笑しくなったところで、ガチャりと戸の開く音がした。
「お待たせして済まない。私が城主のラウディ・ウルだ」
目の前のソファに腰掛けながら、見上げるほどの巨体の男は言った。