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タイム・シークレット・バンド  作者: 鈴原さきこ
そして「タイム」
3/14

四年後の彼


 俺たちは、古傷を舐め合う、クソみたいな関係だ。


 視点 浅峰裕太


 今、目の前にいる男は、俺とは別世界の人間だ。

 超有名菓子店の若き後継者、つまりは金持ち。本人はパティシエでもなんでもなく、その恵まれすぎた体と頭脳を活かして、モデル業の傍ら、小説家なんてやっている。柔和な物腰、滅多なことでは怒らない気性。常に柔らかな笑顔を浮かべ、そして不意に物憂げな表情、それが神谷優路という男だ。

 そんな姿を女はどう誤解したのか「王子様」なんて呼ばれている。

 ついさっきだって俺がいるにもかかわらず「おひとりですか?」なんて逆ナンされていた。

 

 (あーあ。)


 はっきり言って、劣等感刺激されまくりだ。

 凡人の俺は、非凡なこいつの側にいたくない。

 こいつの側にいれば、同じ人間どころか。そこら辺の石ころ、もっと言えば背景扱い。


 そんな男は、例にもよって酔いつぶれ。

 俺は、そいつを背負い直す。

 


(あー、また重くなりやがって、こいつ)


 こうなる事が分かっていながら、こいつの酒に付き合ってしまうのは、俺自身の気持ちもあるんだろう。

 

(あの時に戻りたい、あいつに、会いたいっていう・・)


 俺は普通のサラリーマン。

 高校を卒業して、どうってことない中小企業に就職。

 どこにでもいる、どうってことない平凡顔。

 最近、女にも見向きもされない。逆に俺の存在を認識している女はいるのだろうか。

 

(あーあ。)

 

 今夜はいやがおうにも、考え方が卑屈になっていく。


 ああ、寂しくなってきた。


 平凡を絵に描いたような俺と、非凡なこいつ。

 どう考えたって、共通点のない俺ら。

 こんな風に一緒にいるのは、むかし。


 とある、バンドを組んでいたからだ。

 同じ高校の同級生同士で組んでいた。


 あのバンド。

 あの音と、あの景色を思い出すだけで。

 

 そこには、一人の少女の笑顔があって。


 ーーーーーーーーーやめよう、忘れよう。

 

 あれは、もう、過去のことなんだ。


 いや、違うだろう?


 もう一人の俺がささやく。


 俺は、バンドに命をかけていた。今思うとそうだった。

 バンドで生きていく、そう思っていたし、その現実が続いていくと思っていた。

 それなのに、今、俺はしがないサラリーマン。どこに行くにも平凡で、普通で。

 どこにだって代わりがいるような、そんな存在。

 あの時は想像もしていなかった、今。

 それが、俺だ。


 それもこれも、あいつが、いなくなったせいだ。


 過去にずぶずぶと沈んでいく。

 傷の舐め合う関係、それが俺たちだ。

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