表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タイム・シークレット・バンド  作者: 鈴原さきこ
そして「秘密」を
14/14

「Let's Song」

歌っていた。

すべてが麻痺して、自分の声が空間に混じりあう。

自分の声が、空に溶けていく、光が溢れる。

ーーーーそれが気持ちよくて、もっと、もっと。

私は求める。


うたう、うたう、うたう。


メロディーが。

止まらない。リズムを、刻んで。


イントロが流れ出す。

何百回、何千回と聞いているはずなのに、頭ん中がクラクラする。

歓声と拍手、その熱。

今この場に立っているのは、このためだと、


今ここにいるのは、

生まれた訳は、


このためだけに。

歌うために。歌うためだけに。


身体中を駆け巡る、未知の感情。

後ろにいるメンバー達が、サウンドで私の背中を支える。


---------さぁ、


息を吸い込んだ。


「!」


また、ゆめ。

嫌な汗をかいてる。じっとりと汗で張り付く高校の夏服。

青空に、背中はコンクリート。

場所はどこにでもある高校の非常口階段だった。

「ははは、」

乾いた笑いが出る。

夏の太陽が輝いていた。


------叶わなかった、夢。

見ることも出来なかった夢。


確か。

選択美術の課題中………………。

今の、自分の状況が掴めてきた。

右手に筆持ってるし、膝の上には、キャンパス。


一瞬、意識が飛んでたみたいだ。

寝てない、私は寝てない。


「・・・・」

そう、寝てない。例え、口に端に濡れた感覚があっても。

よだれを垂らしてなんて、寝てないんだから。


ーーーーぎゅいん、どかどかどどか!!


体の中をつん裂く爆音。それは壁を伝って隣の音楽室から。


ヘタクソ!!

心の中で、絶叫する。

ばきっと、手に持った筆が音を立てて割れた。


さいあく。最悪だ。最低だ。


「……………………、」


選択授業の時間。

生徒は美術か、音楽か、書道かを選べる。私は美術をとった。けど。

絵筆をバケツに投げ入れる。


なに、今の音。


しかも、その音に対しての拍手と歓声と野次。

何考えてんの?今の音で?


なんか、むかついてきた。


ーーーーー私の方が、もっとうまく歌えるのに。

そんな風に考える。


私の方が。

私の方が、絶対に、上手いんだから。


ーーーー歌いたい。

そんな欲求が湧き上がる。

これは、ボーカリストとしての本能。


まわりに、人の気配はない。

忘れていたはずの、本能が湧き上がる。


声を出す。

誰も来ない。


腹ん中から、向こう側に向かって。誰かを呼ぶように。

声が響いて、空気に溶けて。どこかに届いていく。


ふふっ、ふふ。

何だろう、楽しくなってきた。


「ーーーーー♩」


だんだん。

地声から、歌う声になっていく。


さぁ、歌おう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ