彼女の困惑
そんな事って・・・・。
医者と、兄さん。二人の顔を見つめる。
二人とも、冗談を言っている顔じゃない。
知ってた。
兄さんがそんな事するような人じゃないって。
じわじわと、何かが侵食していく。
心の穴、頭の中。
全てが、私を追い詰めていく。
「出てって・・・兄さん。出てってよ!」
気が付いたら、叫んでいた。
悲しいかな。あまり叫んだ事のない私の声は、病室に虚しく響いた。
「千都、」
兄さんが私の名前を呼ぶ。
「兄さっ・・・」
拒絶の言葉は、兄の温もりにかき消えた。
「良かった、俺は、お前が帰って来てくれて、良かった。お前がいなくなった時、俺は、どうしたらいいのか分からなくなった・・・・」
ぎゅうううっ、と強く、優しい温もりが私を抱きしめる。
意味のわからない、訳のわからない事を言われているはずなのに。
その温もりに、抵抗出来ない。
そのまま抱きしめられていたら、兄さんの言っている事が本当だって認めているようなものなのに。
四年?
四年間って、何?
もし四年、兄さんの言っている通り、本当に経っているとしたら、私が組んでいたバンドは?
ユウは?アサは?ジンは?セリは?
ーーーーみんな、みんなの事、私。
裏切った、って事になるじゃないか。