第八百二十五話 お散歩の途中で
「今日は何しようか」
「お仕事もないしー、イチャイチャしたいなーっ」
ここ最近のミカは何をしたいか聞くと必ずこう答える。いや、いいんだけどさ。たまには家で二人で甘えあうより別のことをしたい。
「んー、それもいいけど……お散歩でも行かない?」
「むむっ、お仕事以外で外出なんてアナズムじゃ久しぶりじゃないかな? 行こう行こう」
ってなわけでお散歩デートをすることになった。
いっつも思うけれど家でイチャイチャしかしないのって、この国に俺らが住んでる地域ほど娯楽がないからなの。
地球ならだいたい日曜日とか遊園地行ったり水族館行ったりして、帰りにお店でご飯食べて、時間に余裕があれば大人な場所に入るってことをするんだけど。
「今日はいい天気ね」
「いい天気じゃなったとしても、お出かけすることになってるんだったら無理やり晴れにするけどね」
「そんなこと一回もやったことないじゃない」
「まあね」
アイテムを使えば何でもかんでも自由自在だから。……そうだ、この国に娯楽がないのなら俺が作ってしまえばいいんじゃないかしらん?
日本円にして「兆」の単位で財産あるし、広く土地を買い取るなりしてしまえば……。ふむ、もしかしたらいいお金の使い先があったかもしれない。
本当に、アイテムマスターのおかげで一切お金は使わないのに増えてく一方だからさ。アナズムでは。
「ね、ミカ」
「なあに?」
「ちょっと考えついたことあるんだけど、聞いてくれる?」
「いいよーっ」
さっき考えたことをミカに提案してみた。コクコクと頷いてちゃんと聞いていてくれる。
「たしかにそれは良いかもね」
「でしょ? 時間もたっぷりあるしさ、悪くないと思うんだよね」
「でもそういうのを作るんだったら、きちんと今現在、娯楽を提供して生活してる人たちに害が出ないようなことも考えつつ、数十年、いや数百年先にもその施設があることを想像しながら作らなきゃダメよ?」
「う、うん、そうだね!」
そういえばミカって経営に関するノウハウは完璧だったなぁ。さすがはおじさんの娘。社長令嬢だね。
思いっきりあの会社継ぐ気でいるからなぁ。俺は全力でそのサポートとかしなきゃいけないんだよね将来は。
「でも楽しそうね。こっちの世界にお父さん達もきたことだし、アナズムの時代を一気に進めちゃうのも悪くないかも。もちろんさっきも言った通り、アナズムの良いところを残した上でのことを考えなきゃだけど」
「まあ、国王様達なら柔軟に対処してくれそうだね」
そうなると今までミカと色欲に溺れながら惰性で過ごしてきたアナズム生活に光明が見えてきた気がするぞ。
暇な日常とはおさらばできるかもしれない! 何でもかんでもできる俺の力はすごいかもしれないけど、その分暇だからね。
「あ、でも」
「んー?」
「私、いまの何もない生活も好きだし、有夢とイチャイチャし足りないから、やっぱりもう少しそういう大掛かりことは後にしない? まだアナズム来て一年近くしか経ってないんだしさ、あと4年くらいは……」
「えー、いいよ!」
今ですらイチャイチャし足りないとは。
毎回驚かされるなぁ、もう。可愛いからいいけど。
それにミカのお願いは9割9分聞いちゃうからね。ミカが俺とイチャつき足りないっていうならそのままイチャイチャすることを続けなきゃ。
「ん……? ね、あれ見覚えない?」
「あれ?」
いいよ、と答えてから嬉しそうに俺の腕に抱きつきながら歩いていたミカは、遠くの5人ほどの団体を見てそう言った。
向こうもこちらに気がついたようで、その5人全員がこちらに振り向いた。
一人はわかる。
あたまにヒレがついてるからローズだろう。最近家に来ないと思ってたけどここで何してるんだろうか。
もう一人もわかった。ハゲだからね。
ラハンドさんだ。……なんかすごく久しぶりな気がする、ラハンドさん。
ってことはそのラハンドさんの周りにいる髪の色が同じの二人はゴッグさんとマーゴさんだね。
むむ、ローズとあの三人になにか接点ってあったかな? それにあと残りの一人は……あのガタイの良さからすると……ガバイナさんか!
「もしかしたらローズとガバイナさんとラハンドさん達3人かもしれない」
「やっぱり? 私もそう思ってたところなの」
「行ってみよう」
こちらが動き出すと、向こうの団体もこちらに向かって動き出した。近づけば近づくほど思ってた通りの5人っていうのがわかる。
「ミカちゃん!」
「久しぶり!」
マーゴさんがミカに飛びついた。ミカはそれをうまく受け止める。他4人も追いついて、俺らと対面することになった。
「お、おいマーゴ。こんな街中でアリム達の名前を叫んだら人だかりが……!」
「大丈夫ですよ、赤の他人には見た目も声も、ボク達を呼ぶ声でさえ別の人のものに置き換えられるはずです! それよりお久しぶりですね!」




