第八百二十四話 お仕事終わりに
「よぅーし、今日もバッチリだ! いつもありがとねー!」
「「お疲れ様でしたー!」」
シヴァ達に詰め寄った翌日。
いつもの撮影があって、俺とミカは森の中でちょっとふわふわした服を着させられて写実を撮られた。この写実が使われる広告はどうやら建築業のようで、新しく作られた木材の宣伝イメージにしたいのだとか。
たしかにアナズムの人たちにとって木はとーっても大事。基本的に家を作る材料は木材が石材だからね。
そしてこの世界には便利なことに、燃えない木とか空調をしてくれる木とかたくさんあるから、そこらへんを組み合わせて家を作ってるらしい。
まあ、俺には関係ない話だけどね。
「帰ったらどうしようか?」
「今日はたくさん撫でて欲しい気分だなーっ」
「わかった」
ということは帰ってからはミカは俺にべったりくっついてきて、俺はそんなミカの頭を撫でまくればいいんだね。
特に今日は体力を使う必要はなさそうだ。
さて帰ろう、とした時に今回広告のモデルになるように依頼してきた建築業の社長さんから声をかけられた。
「あの、そういえばアリムちゃんさん」
「はーい?」
「確かアイテムに関して相当な実力を有していたと聞きます。一応、俺供の方でも鑑定士にアイテムとしての価値を鑑定してもらったのですが。やはり意見は多いほうがいいので、この木なんですけどね、見てみてくれませんか?」
「いいですよ」
見て感想を言うだけなら大した労力じゃないしね。鑑定してみたら最高級という結果がでて、効果も断熱・防火・腐敗しないというなかなかの代物であることがわかった。
この建築屋さんが設定している価格とその木材の価値の釣り合いはとれてるかな。
「価格も効果もちょうど良いと思いますよ!」
「そうか、良かったです。いやなに、この国はアリムちゃんさんのおかげで豊かになってますからねぇ、家を建てる人も増えてきて」
「よかったですね!」
俺のおかげでこの国が豊かになったから儲かっている、その言葉もう何回聞いたからわからない。
嬉しそうにそう言われると、俺も……いや嬉しくはならないな、別に。俺にお金が入ってくるわけでもないしさ。
入ったとしても使い道ないし。
最近、ちょっとずつ昔のリルちゃんみたいな人達を救うための寄付とかはしてるけど。
「ん、おーい、あれなんだ?」
「あれ?」
帰ろうとしていたその時、撮影スタッフの一人が空を見上げてそう言った。
俺とミカも気になって、その場で立ち止まって様子を見る。
「なんか近づいてくるぞ……!」
「魔物か!?」
むむむ、ここの森は魔物があまりでないし、ましてや空を飛ぶ魔物なんていない。
SSSランカーである俺がこの場にいながら誰か怪我でもしたら寝覚めが悪いしなに言われるかわからないから、迎撃するために超久しぶりに探知をしてみた。
「ぬぇ!?」
「え、どうしたのあゆ…アリム!」
「Sランクだ……」
そう、こちらに飛来してきているのはSランクの魔物だった。どうしてこんなところにSランクの魔物が。
「あー、みなさーん! しゃがんでてください!」
「え、なになに?」
「あの飛んでくるのを倒してくれるのか?」
「どうやらSランクの魔物っぽいです! 早くしゃがんでしゃがんで」
「え、Sランクゥ!? うわああああ」
みんな俺のいう通りにしゃがんでくれた。俺は軽くその場で巨大な斧を作り出し、その魔物に向かって投げつける。狙い通りに当たり、窓を真っ二つにしたのを確認。
斧は消しておく。
「倒しました、もう大丈夫です!」
「可愛いし、俺たちは普段、オシャレして写実をとられてるところしか見ないから忘れがちだが、勇者様だったな……」
「ふぃー、たすかったぁ。アリムちゃんが居て良かったよ。でもなんでSランクの魔物なんかがここに……」
「とりあえずどんな魔物か確認しに行こうぜ」
お兄さん達のいう通り、どんな魔物かを落下地点まで見に行くことにした。綺麗に真っ二つになって居たのは懐かしきサンダーバード。
本当に久しぶりに見た気がする。
「おいおいおい……」
「ひえっ…でっけぇ……」
「まだ触らないようにしてくださいね。サンダーバードはステータスが低い人が触ると感電しちゃうので。ボクが処理しますよ」
「あ、あああ、わかった!」
マジックポーチに吸い込んだら終わり。うーん、ポーチの中身を頑張って減らしている最中だったのに荷物が増えてしまった。サンダーバードって何かに使えたかな?
いっそ売って寄付金にしたほうがいいかもね。
「ほ、本当に助かったよアリムちゃん。命拾いしたぁ…」
「アリムちゃんとミカちゃんが今日の被写体じゃなかったらと思うと……ひぃ……」
「むぅ……しかしこんなところにサンダーバードがやってくるなんて」
「紛れ込んだとかかな?」
「かもしれないね」
特に何かの異変ってわけでもないでしょう。こういうことが付近で何回も起これば別だけどね。
とりあえずお礼を言いまくってくれるスタッフさん達とお喋りするのはほどほどに、俺とミカは家に帰ってイチャイチャした。




