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閑話 私のメガネ (桜)

「どこ行ったっけなぁ」


 

 私はちょっとした探し物をしていて、机の中の引き出しやタンスの中を探っていた。別に今すぐ必要なわけじゃないけど、どうしても見たくなったから。

 叶の子供の頃の可愛い写真。今も可愛いとか言ったら怒っちゃうけれど。


 しばらく探していたけど全く見つからなかったから諦めようとしたその時、一つのものが私の目に止まった。



「メガネ、こんな深くにしまってたっけ」



 目が見えない頃にずっとしていたメガネ。

 3歳からついこの間まで、成長によるフレームの変更はあれど基本的にずっと一緒だったメガネ。

 私の人生の8割以上を共にしたメガネ。


 改めて見てみると、本当に牛乳瓶の底みたいなレンズ。これでほぼ盲目だった私の目を、視力0.01くらいまで無理やり引き上げてたのだから、叶のお父さんのところの研究組織の作成物はすごいと思う。

 

 これをしてた頃は、オシャレなんて全然しなかったなぁ。叶が結構進めてくれたけどね。

 どうせ似合わないし自分には見えないからって、何でもかんでも地味なものを選んでた。

 もちろん今は、ちょっとずつ人並みの感性になってきたような気がする。せめて叶と隣で並んで歩いて、叶が恥ずかしくないようにならないと。


 このメガネをしてた頃は、本当にいろんな人にお世話になった。一応盲目って扱いになってたから、身体障害者手帳提示したりして。

 お母さんとお父さんにはもちろん、お姉ちゃんにもすっごくお世話になったし、あゆ兄にも。

 昔は直接的な関係はなかったのに翔さんもよく助けてくれたっけ。


 でも、本当に一番ずっと助けてくれてたのは叶。四六時中助けてくれた。もう何歳から助けてくれていたかわからない。もしかしたらすでに3歳の頃には手や腕を掴んで一緒に歩いてたような気がする。


 ちょっと感傷に浸ってる間に、さらにこの棚の奥に一枚の写真があることに気がついた。それも取り出してみると、小学二年生くらいの私が、叶の腕を掴みながら一緒にお出かけしてる場面だった。

 この一枚を見るだけで、叶が私のことを気にかけていてくれたんだとわかる。


 それにしても、本当にメガネは牛乳瓶ね。叶ってばずっと昔から私のこと好きだって言ってたけど、こんなのをしてた私のどこが良かったのか。叶にしかわからないんだろうね。


 もちろん、私が叶のこと大好きなのは昔からの積み重ねが一番大きい。このメガネを手に持ってると、本当に記憶が鮮明に蘇ってくる。目が見えなかったから声とかだけだけど。

 なにかにつき、必ず心配してくれたっけ。

 いちいち「大丈夫?」って声かけて来たり、定期的に部屋に遊びに来たりして。


 うん……うん、やっぱりこれだけされて好きなならないはずがないじゃない。極めつけはアナズムよ。

 私の目を治すために死ぬかもしれないような仕事を引き受けて日本円にして2000万円を貯めようとするなんて正気の沙汰じゃないわよ。あの頃だってただの幼馴染なのに。


 アナズムに飛ばされるときに落としちゃって、薬を飲むまでなにも見えなかったのも今となっては思い出よ。

 ……メガネ、一回かけてみようかな。

 私は昔と同じようにメガネをかけてみたけど、でも、今となっては逆になにも見えない。

 その分、叶との思い出が次々と蘇ってくる。記憶力は私も自信があるから、大抵のことは覚えてるし。


 ……やっぱり叶のこと大好き。

 どうしよう、こうしてる間にも会って抱きつきたくなってきた。家は隣だし、今日は叶になにか特別な用事とかあった覚えないから部屋に突入しちゃおうかな。


 なんて考えている間に、私は自分の部屋の窓をあけ、叶の部屋の窓もこじ開けて乗り込んだ。



「あ、桜! そろそろくるんじゃないかと思ってたよ。いま、俺もちょうどやるべきこと終えたところなんだ。……手に持ってるそれって、昔のメガネ?」


  

 叶がニコニコしながら話しかけてくる。

 でも私は無言で叶の下まで行き、抱きついた。



「わ、どしたの?」

「今なら叶になにされてもいい気がする」

「なにがあったの?」



 私はついさっきまでしていたことを話した。あと、ちょっとだけありがとうとも伝えた。



「へー、まあたまには過去を振り返って懐かしむのも大事だよね!」

「うん、大好き。愛してる」

「えへへ、そんなにはっきり言われたら照れるなぁ。俺も大好きだよ」



 そう言って叶は私を抱きしめてくれた。昔からの温もり。大好きな人の温もり!

 


「すごい甘えてくるね」

「うんっ……今なら叶のお願いは、なんでもするからね?」

「あはは、何でもか。じゃあこよままずっと抱きついててもらおうかな」



 いまならエッチなことでもオーケーだったんだけど。

 とりあえず叶は、私に対してエッチな感情は自粛できてる。本当に今ならなにされても良かったんだけどね、襲われて服を脱がされても、胸をたくさん触られても、あるいは……最上級のえ、エッチ…とか。


 まあ、叶のガードは固いからダメだし、約束は守らないとね。仕方ないから私は、いまできる範囲で出来るだけ心ゆくまでかにゃたとイチャイチャした。

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