第八百十八話 また変な場所に…
「うわぁお」
「今日は変なところにあるね」
新しく日課となった、帰宅途中の幻転地蔵の様子見。今日のお地蔵様の首は、ちょっと離れた場所のガードレールの柱の上にバランスよく綺麗に乗っかっていた。
通り道じゃなかったら気が付かず、首のなくなってしまっている幻転地蔵だけをみたら必死に辺りを探し回ったことだろう。そのくらい離れてた。
「あとで監視カメラ確認しないと。どうしてこうなったんだろ」
「さあ。……それにしてもここ……」
美花がキョロキョロと辺りを見回す。そして不安げな顔を浮かべながら、握っていた俺の手をさらに強く握ってきた。
「どしたの? ここで昔なにかあった?」
「うん……いつも何気なく通ってるここだけど、そういえば私がアナズムに送られるキッカケになった、トラックに轢かれた場所だなーって」
確かに前にそう言っててね。本当にいつも何気なく通ってるけど。てか通らないと帰れないし。
「あー、トラウマだね」
「いや、トラウマってわけじゃないわ。ここで死ななきゃ有夢に会えなかったわけだし。それに毎日ふつうに通ってるし」
「そっか。トラックに轢かれるのって痛い?」
「うん痛い。でもすぐに何が何だかよくわかんなくなるのよね。麻痺するというか」
俺の場合、頭に植木鉢が落ちてきて即死だったから。痛みとか一瞬で忘れちゃった。どっちかというとアナズムで確か黒兵犬だっけ、あれに噛まれた時の方が痛みはあった気がするね。
「そうだ、結局美花を引いた犯人って誰だったんだろ」
「警察が言うには、確か近くの監視カメラを見る限りじゃ、無人で動いてたって翔から聞いたわ。まあ、今はなかったことになってるし、永遠にわからないけど」
「まさかだとは思うけど、アナズムのなんらかが関係してるのかな? 無人トラックとかありえないもんね」
「えー、意図的に私殺されたとか?」
だとしたら誰がなんの目的で?
そうなるとやっぱりシヴァがひた隠しにしてる事が気になってくるよ。
「ふふ、なんにせよアナズムに来なかったら有夢に会えなかったし、こうして地球に戻ってきてラブラブできてるからなんかの思惑だったとしても別にいいんだけどっ」
「えへへー……あ、まってまって、まだ外だからそれ以上は家でね」
「うん」
ディープキスしようとしてきた美花を止める。とりあえずすぐにお地蔵様の首を戻し、監視カメラを持ってさっさと家に帰った。続きをするためにも。
普段着に着替えてから俺の部屋に集まる。
「監視カメラが先か、イチャつくのが先か」
「やることは先にやっちゃった方がいいと思う」
「それ外でキスしようとしてくる人の台詞じゃない」
「えへへ」
お地蔵様の首の行方の中で最も奇怪だった今日。録画を見て見ると、まず、いつも通りの時間に首が取れちゃってから自動でコロコロと転がってゆき、勝手にガードレールの柱部分の上に乗っかるというもはやわけがわからないものになっていた。
そしてそのあと、誰もお地蔵様のことを気にかけようとはしない。
「うわぁ」
「軽くホラーね、これは」
「おかしいなぁ、家が凍る事件といい今日は何かおかしなことでもあるのかな?」
「来週末にアナズムに行った時、またシヴァに聞いてみる?」
「どうせ答えてくれないだろうなぁ」
俺たちのことを孫のように扱ってくれてるし、おじいちゃんに何かねだる子供のような態度を取ればポロっと教えてくれたりしないかしらん?
このまま毎日ずっと首を直し続けるってのもキリがないしさ。
「ふむぅ」
「……ね」
「なぁに?」
「怪奇現象に悩むのもいいけど、そろそろイチャイチャしよ? 一応、今日の分のチェックは済んだでしょ?」
「ああ、うん。そうしようか」
もう我慢しきれないみたいだ。
美花がガバっと抱きついてきて上で、頬にキスまで。俺も抱きしめ返してあげる。
「今朝、私がさなちゃんと話してた話だけどさー」
「ああ、氷漬けになったらってやつ?」
「そーそー。なるんだったら一緒だからね、ずーっと一緒だからね! 何かしらで封印されようが氷漬けにされようが死のうが一緒だよ?」
「うん、もう一人にはしないから大丈夫だよ。それに俺たちはずっと繋がってるじゃないか。アイテムの効果ではあるけど。もう二度俺たちは片方だけになるなんてことないんだから」
「うんっ!」
トラックに轢かれた時のことも思い出したのか、ちょっと今日は美花が怪しいデレ方をしてる。それも可愛いからいいんだけど。
「こう、裸で抱き合ったまま永遠に……」
「つまりそれは、俺以外に裸を見られる可能性があるということだ」
「はっ……! いや、でもやっぱり……うーむ」
ありもしないことで悩み始めた。可愛い。
しかし今朝話してた通り、裸で抱き合ったまま氷漬けになるなんて状況はありえないでしょ流石に。せいぜいハグしあったままが限界だって。
なにはともあれ、このあと美花とメチャクチャイチャイチャしまくった。一応、いつも通り。




