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第七百八十六話 悔いと戦慄 (翔)

「どうして僕達は先に死んでしまったんだろう」



 リルが全てを言い終わった後、お義父さんは半ば放心状態でそう言った。お義母さんに関しては泣きじゃくってしまっているほどだ。



「ショー君……そう、君には感謝しなきゃいけないですね。リルが…この場にいるのも君のおかげ。いや、形だけでも反対しようとしていた僕が本当に恥ずかしい」

「い、いえ、そんなに思い詰めなくても……」

「思い詰めるべき事なんだよ。僕らが死んでしまったから、この娘の11年間はッ! もっと、僕が強ければ……死んでいなければ……」



 身を呈して村を守った結果、自分の娘が守れなかったことを、繰り返し悔やんでいる。

 俺はリルの方を見た。

 リルは表情を浮かべていない。



「みんなの言う通りだったんだ、本なんか読んでばっかりじゃなくて、もっとちゃんとした力をつけていれば良かった。知恵だけで戦ってきた僕はいい気になっていたんだよ。その結果が……」

「わふ……パパ、そんなことないよ」

「リル……」



 リルは泣いている母親と、血が出るほど拳を握りしめている自分の父親を抱きしめた。

 


「パパとママが命は守ってくれたから、私はこうして生きていられるんだ。そして素敵な人と出会えたの。だから……そんなこと言わないで。たしかに私の11年は地獄だったけど、なんとか頑張ったんだから!」

「リル……」

「ごめんね、ごめんね……ごめんねっ…」



 しばらくずっと抱きしめあった状態のまま、時間だけが静かに過ぎていった。

 15分は経っただろうか、やっと三人とも姿勢をほぐした。



「……あの二人はどうしたの?」

「私を引き取った二人は、今、村の牢屋の中だよ」

「そうか。村長は元気にしてたか?」

「わふ、そうだ、ショーと出会ったまでの話じゃダメだね。……この間、村に行ったことの話もするよ」



 リルは再び二人に語り始める。

 今度はつい最近の出来事だな。自分の里親二人が牢屋送りになった経緯、村長の再任、あの二人が両親の体の一部を持っていたから生き返らせられたことが中心か。



「それで僕達がここにいるわけだ」

「わふん、そういうことだよ」



 過去に関する話が一通り終わった。

 どうやらこれから今後の話をするみたいだ。



「……で、これから僕達はどうすればいいんだろう。身の振りを考えなければ」

「12年って大きいから……暮らしにくいと思うけど、せっかく生き返らせてもらったし頑張ろうね」

「わふぇ? パパとママ、ここで暮らさないの?」

「何を言っているんだ、ショー君と暮らしてるんじゃないのかい?」

「わふぇ……アリちゃんを読んだ方が良さそうだね」



 俺とリルは有夢を呼んだ。本当に待機していたようで、すぐにやってきた。



「はいはい、何か御用かな?」

「アリちゃん、パパとママもここで暮らしていいよね?」

「最初からそのつもりだけど」

「えっ、いいのかい? そんなにたくさん暮らせるだけのスペースが……」

「あー、そりゃ、この部屋だけじゃわからないよね。 ここはね、三つくらいの家庭が一緒に住んでるんです。合計ですでに12人いるんですよ!」

「ここはお屋敷の一室だったんだ!」

「とりあえず外、見て見ます?」

「お願いします」



 有夢は俺らを連れてこの部屋を出た。  

 二人の反応はどうだろうか。



「わ……ふ? ここ、ここはお城かな!?」

「本物のお城ならあそこから見えますよ」

「わふぅん!? あれはたしか、メフィラド城じゃないか、本で見たぞ……って近くないですか?」

「ほぼお隣さんなので」



 よく考えなくても、城が隣にあって家自体がこの大きさってヤベェよなぁ。

 まあ、これも有夢が勇者としての権力を持ってるってのもあるんだろうが。



「ここはメフィラド王国なの?」

「はい、メフィラド王国です」

「奴隷……そうだ、これだけ広かったら奴隷とかいるでしょう? この国だったら……」

「わふ、なんと驚け! 今、この世の中はメフィラド王国を中心に奴隷制が見直されてるんだよ! メフィラド王国にはすでに奴隷は一人もいないんだ! …裏社会とかも含めてね」

「わっふぅぅぅ!? 12年の間に一体何が……」



 それはウルトって人が頑張った証だわな。そう考えるとあの人はやっぱり英雄だな。



「うーんと、この家全部を案内するにはとても時間がかかるので、とりあえず二人に用意したお部屋だけ紹介しますね」

「わ、わかりました」

「お願いするよ」



 俺たちが普段暮らしている部屋(だが中は一軒家みたいな感じになっている)の集まり。

 マジックルームだからいくらでも部屋を増やせるんだから、さらに人が増えても問題ないらしい。



「この空き部屋ですね」

「ドアからして上等な部屋ですが……」

「皆同じような部屋なんで、気にしないでください。では、中をどーぞ」



 有夢はドアを開けた。ちなみに初期の家具は全員同じだから俺らはすでに見慣れている。

 この二人の場合はどうなるんだろうか。



「わふぇ……住んでいいの? 嘘でしょ?」

「あ、アリムさん…ほんとにここですか?」

「ええ」



 やっぱり有夢って太っ腹だよな。

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