第七百七十六話 レベル上げの鬼の親 2 (親)
「なかなかキツイな……」
「そ? 何周したっけ?」
「今日だけで12周かな」
父と母はダンジョンを発見した翌日も頑張っていたが、何回も回るのはこたえてきたようだった。
それも父親の方だけであり、母の方はケロリとしているが。
「というかもう、念術使うのめんどくさい……」
「ステータス的に殴っただけで勝てるんじゃない?」
「そうだね、そろそろ効率重視にしようか……」
ダンジョンの真ん中のフロアで話し合っている二人。疲れたように、父親はその場に寝転がった。
「んあー、疲れた……」
「もうパパったら。頭がよすぎるぶん、昔っから疲れるとすぐにこうなるんだから。床、汚くない?」
「出入りするたびに魔物の血とかは消えてるから、多分汚れとかも消えてるはず。そんなことより冷たくて気持ちいいよ、ここ」
しばらくそうして床に突っ伏していた父だったが、唐突に地面を叩き始めた。一定の間隔で叩いては耳をすませる、ということを繰り返している。
「どうしたの?」
「いや……なんかここ音がおかしい気がして」
「おかしい?」
「うん、この下になにか空洞があるみたいなんだ」
「RPGでよくある、隠し部屋ってやつかもよ?」
彼女がそう言うと、父は元気が出たようにすくっと立ち上がった。顔は元気ではあるが、やはり疲れは残っているようで体はフラフラである。
「ふむ……ママの言う通りかもしれない。ここを破壊できないかな」
「あら、じゃあ任せてよ。水術・極使ってみる」
「いつの間にそんなにあげたのさ」
「料理を上げるついでにね。離れてて」
自分たちに影響しないような環境を整えると、母は水の最上級魔法を放った。
自由に流動状なら自由に形成できる最上級魔法、彼女はさながらレーザーのように圧縮している。
床に穴が空いた。
「さっすがパパ!」
「念術オンリーでやってきたけど、普通の魔法も悪くないもんだな……スキル有り余ってるし、いくつかやってみようかな」
「そういえばまだスキル合成もまたもにしたことないわよね」
「念術だけでなんとかなったからねぇ。ま、とりあえず下に降りてみよう。念術で降りれば安全だよ」
父は自分と母を浮かせ、穴の空いた床にゆっくりと入っていった。
10メートル強ほど進んだところで地面に足がつく。
上からの光で地面はよく照らされていた。
「あ、見て! 宝箱!」
「おおーっ…….でもこの部屋なんか怪しくない?」
「え?」
「だいたい半径50メートルほどの部屋の真ん中に宝箱がポツリと一つだけってのは……何かありそう」
「じゃあ警戒しながら宝箱開けましょう。二人であげれば怖くないよ」
「……そうだね」
二人は手を握りながらその宝箱の前に立った。空いた方の手で同時に宝箱を開ける。
そこにあったのは黄色い魔核とカードが数枚。
「これは魔核か」
「じゃあこの二つが噂のスキルカードかな?」
「かもしれないね。この魔核も多分、Sランクかそこらだろう。スキルカードもきっと強いに違いない」
宝箱の中身をすべて、父は一旦バックの中にしまう。その間に母は謎の行動をしていた。
「なにしてるの?」
「いや、これ引っこ抜けないかなーっと思って。綺麗だから持って帰ろうと」
「床にぴったり貼り付いてるみたいだね」
「はぁ…残念」
母は本当に残念そうな顔で、宝箱に寄りかかった。その時、宝箱は地面に少しだけ沈む。
「……引いてダメなら押してみろ、か」
「ふえ?」
「ママ、そのままその箱を押し込んで見て、地面に」
「わ、わかった」
言われた通りに彼女は宝箱を大きなスイッチを押すように、地面に押し込んだ。父の予想通り、それは最終的にすっぽりと地面に埋まってしまう。
それと同時に、二人の頭の中にメッセージが浮かんできた。
【トリアエリアル山の「哀しみ」のダンジョン のシークレットステージに入りました。ここでは、ミッションが出されます。そのミッションをクリアすると、宝箱が現れます。クリアした際の達成度によって、手に入る宝箱の中身が変化します】
【出現した三体の魔物を、ある条件に従ってその順番で倒せ。制限時間は10分。全滅させるか制限時間内に到達した時点でクリア。
問題が解けており、さらに到達が早ければ早いほど手に入る宝箱の中身が良くなる。
ただ全滅させた場合は時間により内容が変わるものの、最高でも宝級までとなってしまう。それでは、ミッション開始】
「へぇ、もっともらしいじゃない」
「パパ、見てそこ!」
出てきたのは銅色に光沢を放つオーガに、銀色の犬の魔物、金色のイノシシの魔物だった。
「これを順番通りに倒せ……って」
「ああ、なるほどね。もう終わった」
「え?」
二人の頭の中に再びメッセージが現れる。
【ミッションをクリアしました。〔達成度・神具級〕宝箱が出現します】
「……ねえ、もう倒したけどどういう順番だったの?」
「ああ、簡単簡単。上のフロアの魔物の順番だよ。オーガが一番目にあの門の明かりが灯り、イノシシの魔物が三番目、あの銀臣犬っていうのが五番目だったからね。その通りに倒した」
「はーん、なるほど」




