第七百七十一話 ダンジョン 2 (親)
「ふむ、これで行けるようになったみたいだ」
「おおっ……いよいよって感じね!」
昼食を食べ終えた後、二人はさっさと残り3匹の魔物も倒してしまった。
「とりあえず、ここまでの戦果をまとめてみよう」
「えーっと、Cランクの魔核が3匹から出てきて合計23個、Bランクの魔核が2体から出てきて合計17個ね」
「うん、レベルもだいぶあがった」
「で、あからさまにこの先にボスがいるけど、進むのよね?」
「いや……」
父は門をじっと睨んだ。そしてしばらく考えるようにに顔を伏せた後、こう言った。
「一旦出よう。まだ私たちにはボスは早い」
「ええ!? レベルだってもうんずいぶん高いのに?」
「いや……なんかここでさっさとクリアしてしまわない方がいい気がするんだ。それにダンジョンのボスってSランクやSSランクだろ? 私の戦い方の弱点は先手を取られるとことだからね、ステータスが高いやつらにはリスクが高い」
「そっかパパがそういうなら、そうしましょう」
二人はダンジョンを出た。
昼食をとった時間も含めて1時間半ほどしか潜っていなかったので、辺りの様子はそこまで変わっていない。
「さて、じゃあ引き続き魔物を倒してこうか」
「まって……ちょっとなにか思いつきそうなんだ」
「へぇ、期待してもいいかな?」
母は嬉しそうに彼の顔を覗き込んだ。彼女にとって、彼がなにかを考察している時の顔はとても好ましい。
「とりあえずもう一回、ダンジョンに入ってみよう」
「出たばっかりなのに?」
「うん、出たばっかりなのに」
「まあ、パパがそう言うなら」
二人は再びダンジョンの中に入った。
先ほどとはなにも変わらない中央の部屋。否、ただ一つ変化があるとすれば、光が全て宿り、開いたはずの門が再びしまっている。
「あれ……しまっちゃってるよ」
「……まさか」
「あっ、パパっ! どうしたの走って!」
父は自分たちが一番最初に入った部屋に再び入室した。その場にいたのは何事もなかったかのように大剣を構えて、二人を睨んでいるオーガ。
「はははは、なるほど、そういうことね!」
「えっ……あっ……復活してる!?」
「つまりあの子達はこれを利用してレベル上げをしたわけだ!」
「やっぱり答えはダンジョンにあったのね! 私の予想通りっ」
「すごいすごい! ふふふ、もう一周するぞ!」
「うん!」
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「……出現した魔物も、魔核もなに一つ変わらなかった。そして少しでも二人同時にダンジョンから出たら、中の魔物が復活するということもわかった。確かにこれなら、いとも簡単にレベル上げができるよね」
「魔核もレベルもすごいことになってるよ?」
「そうだね。整理する時間とかも必要みたい。街に帰って素材を売ればしばらく遊んでもいいくらいあるし」
二人は実験なども兼ねて7周ほど、ダンジョンの魔物を復活させては倒して回った。父の中では攻略法などが確立されたようだった。
「なるほど、それで有夢はあんなに金持ちなのか」
「あの子、ゲーマーだからね」
「実にあいつには御誂え向きだよ」
自分の息子が必死になってダンジョンを上り下りしている姿があまりに簡単に想像できてしまうため、二人は思わず大声で笑った。
全滅させた後のダンジョンの中で話し合いをしているので魔物が寄ってくることはない。
「それで、ここはどのくらいでクリアするの?」
「そんなもったいない。もはやこのダンジョン自体が宝だよ。クリアしたら消えちゃうらしいし、もうずっとこのまま上り下りを繰り返しせば良いんだ」
「それもそうね。だけど……なんでこんな簡単な方法、誰も思いつかないのかしら? 私達くらいでしょ?」
その疑問に、父は少し考えてから答える。
「なんらかの方法で脳が制限されている可能性がある。仮にダンジョンが思いつかなくても、魔物の乱獲である程度はレベルが上がるはずなんだけど……それをする人も少ないみたい」
「この世界の人々にねぇ」
「とにかくそういう風潮というか、そういうのが欠けてるんだね。これでパワーバランス取れてるみたいだし、むやみやたらと人に教えないほうがよさそうだ」
うんうん、と、科学者である父は結論に満足したように頷いた。母はさらに質問を投げかける。
「それはわかったんだけど、リルちゃんも有夢達と同じ感じじゃなかった? あの子、こっちの世界出身でしょ?」
「誰かが教えたんだろう。教えなきゃ気づかないようにできてるんだよ」
「はぁ……なにか大きすぎることに首を突っ込もうとしているような……」
「うん、だからこれ以上散策はやめておこうね。もう叶辺りが疑問に思ってなにかしら調べたりしてるでしょ」
「それもそうね」
とりあえずはレベル上げに専念する、ということて二人の意見は一致した。そのあとは夜になるまでひたすらにレベルを上げ続け、ステータスも管理した。
ちなみに寝床は全滅した後のダンジョンにするようになったようだ。魔物が出ないからという理由で。




