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第七百六十八話 旅行の楽しさ 2 (叶・桜)

「すごいねぇ……そんなことが。じゃあ今はバッチリ見えてるのかい?」

「はいっ!」



 桜がこのアナズムに環境を合わせて、自分の境遇と叶と付き合うまでの過去をスケールを小さめにして話した。

 女将さんは軽く涙目になってメモ帳にメモをとっている。



「うん、ここ最近じゃ一番馴れ初めが深いカップルだね」

「観光客から話を聞いて、それをメモしてるんですか?」

「そうだよ。いつかこれをまとめて本にするのさ! この村にはうちと合わせて宿屋が二つあるけど、そのどちらもにカップルの観光客から馴れ初めを聞くように頼まれれてね」



 桜はそのメモ帳を覗いてみたが、たしかにぎっしりと文字が詰まっており、日にちとどんなカップルだったかなどが細かく書かれている。



「……というわけだからこの話、いつか使わせてもらうかもしれないけどいいかい?」

「どう、カナタ」

「いいと思うよ」

「すまないねぇ。あとは…そうね、ほら、ゆっくりしていきなさい……と、私としたことがまた忘れるところだった。ちょっと彼氏君の方来てくれないかい」

「はい」



 カナタは先にサクラを部屋に行かせて、女将の話を聞くことにした。女将さんは一つの袋をカウンター下から取り出すと、眉間にしわを寄せてカナタの顔を覗き込んだ。



「……あれ、よく顔を見たらアンタ、女の子かい? 服装とかが男ぽかったから勘違いして……」

「すいません、こういう顔なんです。ちゃんと男ですから」

「なんだ、やっぱりそうかい。……で、これ使う?」



 差し出された袋の中をカナタは見た。前に乗っていた馬車で咄嗟に隠したものがその中には入っている。

 柄にもなく顔を赤らめた。



「え……遠慮しておきます。お、俺たちそういうことしてないし……まだ14歳なので」

「やっぱりそうだよね、変なもの進めてごめんね。じゃあゆっくりおやすみなさい」



 カナタは再び目の前にあのアイテムが現れたドキドキを抑えながらあてがわれた部屋にきた。

 もちろん、中にサクラが居た。



「やっぱりいつもいる場所以外で眠るっていいね!」

「今まで旅行とかそんなに行ったことなかったもんね。目のせいで」

「これからはたくさん行けるでしょ? こっちきてよ」



 ベッドに座っているサクラは自分のとなりの空いてる場所を叩いてカナタを呼んだ。

 カナタが素直にそこに座ると、サクラは抱きついた。



「えへへ」

「どうしたの?」

「知らずに立ち寄った村が偶然恋愛用の観光場所で、しかも結ばれるお告げをもらったから嬉しいの」

「そうかそうか」



 今回の旅で何故か縁がある避妊装置のことは頭の中から払拭しつつ、抱きついてきているサクラの頭を撫でた。



「明日朝早く、また出発するのよね?」

「うん。もう夕方だしご飯食べてお風呂入って、寝たらすぐに出発だよ」

「明日の馬車なんだけどさ……安めのやつにしてみない?」

「そりゃまた、なんで?」

「ほら、この際だし最高級のものばかりじゃなくていろんなのを体験してもいいんじゃないかと思って」

「わかった、そうしようか」



______

____

__



 翌朝、二人は安い馬車を捕まえることができた。



「二人で乗れるけどキツキツだ……いいのか? 旅費を抑えたりしたいやつがのる馬車だぜ? デート用じゃねぇ」

「いいんです、一回乗ってみたくって」

「はー、服装見るからにどっかのボンボンだろう? 金持ちは考えることわかんねーなー。まあ客になってくれるってならええよ、乗りな」



 二人はその狭い馬車に乗り込んだ。

 身体がかなり密着する。本当はサクラが無理やりカナタの隣に座ったのだが。席は一人半ほどの大きさの椅子が二つあるが、サクラとカナタはそのうちの一方にだけ集中している。



「……あんたら、いいのかそれで」

「はい、えへへ」

「お構いなく」

「なんともお幸せそうなこって。じゃあ出発するけど…眠る時は横になれず座ったままになる。それでいいか?」

「全然構いません」

「まあその様子なら良いんだろうな」



 馬車は発車した。古びた車輪もギシギシとなっている。

 少しの振動で二人は揺られるが、カナタはシートベルトのようにサクラのために手を伸ばしている。

 そんなカナタの腕に、サクラは幸せそうに抱きついた。



「狭いのも良いね」

「こんな詰め詰めだけど本当に良かったの?」

「いいのよ、いいの」



 その後数時間ずっとそのままであり、ロクに身動きひとつとる事が出来なかったが、サクラは終始嬉しそうにしていた。

 


「サクラはツンデレ」

「え?」


 

 唐突にそう言ったカナタにサクラは驚く。



「昔、みんなによく言われてたことだよ。今はデレデレとか言われるけど」

「そうかなぁ……付き合ってるから甘えてるだけよ?」

「それをデレてるって言うんだよ」

「そうなのかも」



 その言葉を聞いていた馬車の御手は内心で悪態をついていた。なにせ彼は未婚であったのである。

 少し運転も乱暴になったが、それすら二人はいちゃつく口実としていた。

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