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第七百六十七話 旅行の楽しさ (叶・桜)

「んんーっ……ふぅ、外の空気美味しいね」

「うん、やっと一つ目の村だ」



 丸一日馬車に乗っていた二人は、とある村でまた別の馬車に乗り換えることになっていた。

 そこで一泊楽しんだあと、引き継ぎの馬車で目的の温泉地に向かってゆく。その間にこのように途中で止まって一泊する村は3箇所あった。



「ここは俺たち以外に観光客がいるみたい」

「観光で栄えた村らしいんでしょ? なにか名産品とかないかな?」



 そう話している二人に、ここまで乗ってきた馬車の御手が話しかけてくる。



「お客さん、この村には縁結びの輪ってのがあってね、少しだけ宙に浮いているハート形アーチをくぐると死ぬまで結ばれるという言い伝えがあるんですよ。お二人はそういう関係ですよね? 村の中央らへんにありますよ」

「そうなんですか、ありがとうございます! 行こうか、桜」

「うんっ…!」

「それじゃあ私はこれで」



 御手は休むことなく自分の馬車を連れて道を引き返していった。サクラとカナタは言われた通り、村の中央に行ってみる。

 そこにはぱっと見ではよくわからない素材で作られた、半メートルほど浮いたハート型のアーチが言われた通り立っていた。

 叶の鑑定してみると、伝説級のアイテムであり、さらに使われている素材はメスのドラゴン種とオスのドラゴン種であることがわかる。



「伝説級だね、あれ」

「てことは本当に効果がある可能性が大きいってことかな?」

「効果見てみるよ……えっと、これを、手を握り二人で同時に潜った者の相性とお互いの好感度を自動測定し、その段階によって効果を与える。それで最大値がでたカップルには死ぬまでの友情、あるいは愛が約束されるって」

「へぇ……や、やってみよっか」

「もし最大値が出たら一生俺たち一緒ってことだよね?」



 カナタは少し渋っている。こういう形で一生を結ばれるのは良しとしないと兄に宣言したことがあるからだ。

 しかし肝心の桜が嬉しそうに微笑みながらせがんできた。



「うん、だから潜ろうよ。それとも嫌?」

「……嫌なわけがない」


 桜がそう言うのなら良いかと、カナタはかんごえをあらためる。

 そして二人はそのアーチの前に立った。そこへ老人が近づいてくる。



「おお、若いお二人や。このアーチを使うのかね? 一応使用料を取ることになっておりますが」

「いくらです?」

「二人で銀貨一枚。ただ忠告があって……」



 カナタは何の躊躇もなく老人に銀貨一枚を差し出した。老人がポカンとした顔をする。



「忠告聞かなくていいのかね?」

「はい、勝手ながらあのアーチを鑑定し、効果を知っちゃいましたから」

「そうか。それを知った上で…か。もし最高の値が出れば一生を共にすることが約束される。良いのか? その娘と一緒を共にすると決めているのなら止めはしないが」

「ご忠告ありがとうございます。じゃあくぐりますね」



 ついさっき決意を固め直したカナタにはその忠告は要らなかったようだ。



「ははは、一切の躊躇もなしか。……お幸せにの」



 老人は立ち去ってゆく。カナタはサクラの手を握った。二人は息を合わせ全くぴったりに輪をくぐる。

 そのあと、そのハートのアーチはルビーのように赤く輝いた。



「む、これが結果みたいだけどわかんないや」

「鑑定で見れない?」

「どれどれ……赤く輝くように光った場合、死ぬまでの愛が約束される……だって」

「ほ、ほんと!? えへへへ」



 二人は照れ臭そうに笑った。サクラは内心、心の底から飛び上がってしまいそうなほどに喜んでいる。そのことが表情からわかったカナタも同様に。

 そして二人はそんな恥ずかしくもにやけた顔のままその村の宿屋へと訪れる。



「いらっしゃい」

「すいません、明日まで一泊お願いします……」

「あ、相部屋で!」

「じゃあそれで」



 宿屋の女将は注文された通りの部屋の鍵をカウンターから二人に手渡した。

 先払い制であったのでカナタはお金を支払った。

 のちに、女将は二人に話しかける。



「その年齢で二人一部屋かぁ……やるねぇ」

「あはは、まあ色々あったので」

「どうだ、あのアーチはくぐってみたかい?」

「ええ、真っ先に」

「……なあ、あのアーチ何色だった? おばちゃんね、あの色がなにに光ったかによってどれだけの段階からわかるんだよ……」

「真っ赤な宝石みたいでしたよ」



 カナタが正直にそう答えると、女将さんはまるで自分が嬉しいかのように口を手に当て、少し飛び上がる。



「まあっ! それなら最高の結果だよ……へぇ、若いのに……その子とずっと居てあげられる介助はボウヤにあるのかい?」

「どう?」

「どうって…私はあると思うよ」

「おっ、いいねぇ。あんなものがこの村の名所だからさ、カップルが数多く現れるのよ。なんなら馴れ初め話とか聞かせてくれない?」



 カナタとサクラは顔を見合わせた。

 そして目だけで相談をする。サクラはコクリと頷いた。



「じゃあ、私達が付き合うまでの話を______!」

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