表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
800/1307

第七百五十五話 狼の武人 (翔)

 おっさんは村人の一人に担がれ、店かどこかに寝かされたようだ。俺の周りには……その、数人の狼族の子供達が群がり、キャッキャと騒いで俺を褒めている。



「この強さだったら、あいつとめっちゃいい勝負するかもしれないな!」

「わふん……素手でSランカーの彼を圧倒できたんだ。SSランクはあるとみて間違いない」

「わふ? あいつ?」

「あいつはあいつだよ、前の村長の孫」



 前村長の孫ってのは周りからのお墨付きの強さみてーだな、やっぱ。

 すっかり警戒心だとかを解かれたことに安堵してると、森の方から大きな音が響いてくる。

 そこから現れたのは、カバくらいの大きさはあるイノシシの魔物を片手で持ち上げながらやってきた青年だった。



「ん! 皆、どうしたっ?」

「おお! ウルフェル、良いところに帰ってきた!」

「わはん…? どういうこった、誰だあの黒髪黒目の人族はよぉ」



 ズシン、と持ち上げていた魔物を地面に降ろすと、その青年と同じくらいだと思われる村人が事情を説明しているようだった。

 これはまさか。



「……なるほど、おい人族のあんた!」

「なんでしょう」

「見かけによらず口調は丁寧なんだな。いや、それよりあんた、つえーんだってな?」

「……まあ、それなりには」

「わふーん、ところでなんでこの村に来た? 事情を説明しろ事情を!」



 そう言いながら俺に近づいて来たので、普通に事情を説明した。なるほど……あれだ、顔はイケメンってやつだ。 

 身体も相当鍛えてあんな、こりゃーよ。



「里帰りに来た狼族ってのはどいつだ?」

「わふん、私だよ!」



 リルがそう言いながら出てくる。

 俺とおっさんの試合を見て十分に楽しんだのか、機嫌はかなり良いようだ。



「………あれ、あんたどっかで。すっごい昔に見たことがある気がするんだけど、気のせいか? ま、とりあえずよく帰ってこれたな」

「全部彼のおかげさ!」

「わふーん……。それよりさ、あんたスッゲー可愛いな」

「わふん!?」

「いや、マジで……顔もうん、肉体も。魅力の塊みたいだ。はははははっ……あー、おい、お前」



 リルを褒めだしたと思ったら俺を思いっきり睨みつけてくる。一体なんなんだろう。



「俺とサシでタイマンはれ。ルールはさっきおっさんと戦ったみたいだからわかるよな?」

「ええ、まあ」

「………もし俺が勝ったら、ちょっと胸を揉ませてくれ」

「リルのか?」



 コクリと頷いた。

 なるほど、これは絶対に阻止しなければならない。

 揉みたくなる気持ちはすごーーくわかるが。

 つーか本人の前で堂々とこんなお願いできるの肝が座ってるというべきか、阿呆と言うべきなのかわからんな。



「それは………」

「わふ、別に良いけど、本当にショーに勝てたらね?」

「おうおう、本人からオーケイはもらったぜ!」

「わふん、ショー、頑張ってね!」



 なんと、勝手に話が進められてしまった。

 勝たなきゃいけなくなったじゃないか。



「しょーがねーな……」

「おおおおお! 客人がウルフェルの誘いを受けた!」

「わふーー! 現在この村最強の前村長の孫、ウルフェルと、外から来た謎の猛者ショー・ヒノの、彼女を賭けたバトルだああああ!」



 やっぱりこいつが前村長の孫だったか。

 てか、この騒ぎのせいでめちゃくちゃ人が集まってきた。もう村の住人の9割は居るんじゃねーか?

 そんな感じしかしないような人数だ。



「じゃ、ワシが引き続き審判をやりますじゃ。二人とも位置について」



 さっきのばあさんが再び審判を名乗り出た。

 俺とウルフェルは一定の距離を保って対峙する。



「ルールは省略しますじゃ。では、名と獲物を」

「俺はウルフェル! 獲物はこの大剣、カノンだ!」

「ショーだ。獲物はない、素手で行く!」

「おほほ、マジかよっ」



 カノンという名前の大剣も、どうやら伝説級のようだ。まあSSランクらしいし所持してて当然か。

 そんなこと考えていたら、唐突に相手が服を脱ぎ、上半身だけ裸となった。



「ははは! ショーは武器も防具もないからな! これで勝っても武人として嬉しくねぇ! しかし武器無くしちまったら俺は戦えないから、ま、これで妥協してくれや」

「わふーーっ!」

「かっこいいっー!」



 すげぇ身体だ。

 めちゃくちゃよく鍛えてやがる…例えて言うならプロのヘビー級ボクサーをもっとゴツくした感じ。

 ただ、ゴリラのような筋肉の仕方はしていない。


 俺は気がつけば服に手をかけ………脱いだジャケットと服とシャツをリルに預かってもらっていた。



「わふぅ……ショーの筋肉凄すぎてクラクラしてきたよ」

「頼むからちゃんと持ってろよ」

「任せてよ!」



 再び、俺やヤツの目の前に立った。



「すげぇ筋肉だ…!」

「この村の普通の男と同じくらいしかないと思ってたのに……」

「あの身体の中にぎっしり詰まってるのがわかる。よく、筋肉が肥大せずにああも美しく抑え込められたものじゃ……」

「わふぇ……」

「んふぅ……」

「おい、未婚の女どもが筋肉美に脳をやられて倒れて行くぞ!」



 なんか大変なことになってんな。

 リルが俺の筋肉に執着してるから、狼族全体に見せたらどうなるか楽しみではあったけど……まさかこうなるとは。



「ははははは! すげ、おまえスゲーよ! 暑くなってきたぜ、はははははは!」



 すいません、すごく寒いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ