第七百五十四話 猛狼との喧嘩 (翔)
確かに言われた通り、リルとの関係をきちんと話せばある程度は受け入れてもらえるらしい。
村を半分くらい見て回った頃か、重装備をした人に声をかけられた。
この人は獣耳似合わなねーな。
おっさんでも似合う人と似合わない人がいることもだいたいわかって来ている。
「……小僧、戦えるか?」
「えっ?」
「戦えるかと聞いているんだ。何かしら戦えるような経験があったり、職についたりしているのか?」
「あ、はい。まあ一応……」
「だよな、戦えぬ者を狼族である我らが伴侶として選ぶはずもない。しあえ、小僧。俺と戦え。手合わせしてやろう!」
おっさんがあまりにも大声でそう言うもんだから、ギャラリーが集まって来た。
というより、この村では試合なんて割と日常的にあるらしい。みんなワクワクした顔で観戦の準備をしている上に手慣れたスピードで俺とおっさんを囲みやがった。
リルまでもが楽しそうな顔でそこに混じっている。
「こういうことって、やっぱよくあるんですか?」
「ああ、外から戦えるよそ者が来たりしたら、だいたいな。娯楽なのだよ、俺ら戦闘民族のな。戦えない女子供も観戦を大いに楽しむ」
「断れる雰囲気じゃなさそうですね、わかりましたよ、やりますよ」
「それでこそ男だ! 誰か審判を!」
一人の老婆が名乗りでた。狼族の輪で組まれた舞台に、俺とおっさんと婆さんの3人。
「……そういえばお前は防具をしていないではないか。公平じゃない」
「いや、そういう戦闘スタイルなんで」
「そうか」
まあただ単に装備するのがめんどくさいだけだけど。
おっさんは…おそらく、Sランクくらいかな? だから大丈夫だろう。
「わふぃ、じゃあ二人とも準備はいいかえ? ルールはどちらかが負けを認めるか戦闘不能になれば試合終了じゃ。あとはワシが試合を中断させた時。魔法も武器もなんでもありじゃぞ。ただ周りを巻き込まんように注意しなされ。双方、名と得物は?」
「ドム。Sランクのドムだ! 得物はこの相棒、バスターソードのウインドテール!」
ちょっと興味を持って鑑定してみたが…。
おいおい、伝説級の武器を使うのかよ。てか持ってるのかそんなもん。……俺は武器は使わない方がいいな。
有夢にパワーアップしてもらってから一度もレーヴァテイン使ってねーけど…。
「そして、お前さんは?」
「俺はショー、ヒノ・ショー! 武器は使わない!」
「なにぃ!?」
「すいません、これが戦い方なもんで……」
おっさんのこめかみ辺りの欠陥が浮き出ている。
イラッときてるなこりゃ……先頭に関しては自信満々な狼族だから舐められてるとでも思ってるんだろうか。
ギャラリーは伝説級の武器vs素手ってので盛り上がってるみてーだが。
「ほう……じゃあ、武器も防具も要らぬと?」
「はい」
「さては魔法使いか?」
「ま、まあそんなところです」
「ふん……なら、まあいい。婆さん、始めてくれ」
お婆さんは両手を挙げ、それを振り下ろした。
試合開始だ。……さて、初手はどうするか。俺は柔道で挑むつもりだったが……うーん、魔法かぁ…。
ぶっちゃけ何使っても危ないんだよなぁ。
「どうした、魔法を撃たないのか? ははは、魔法使いのくせに! 近距離に入れ込まれたら終わりだろうて!」
戦い慣れしてるんだろう、走ってくるおっさん、なかなか威厳がある。
素早さを少ししか意識していない今、おっさんめちゃくちゃ早く見えるぜ。
だが、俺は剣をつかんでいる両手を掴むことができた。
そのまま背負い投げの要領で投げつける。
「グハッ!」
「おおおっ!!」
地面に思いっきり打ち付けられたおっさん、そしてそれをみて湧き上がる観衆。
人に柔道見られるのは去年、定期試験の前辺り以来だな。
「くっ……! なるほど、鎧で固めているこの俺を投げ飛ばす…か、魔法使いのくせに杖も持たずに素手で挑んできたのはこういうことか。ははは! いいぞぉ!」
おっさんは立ち上がり、剣を構え直すと再び俺に斬りつけてくる。しかし今度は動きが変則的だ。
なので、俺は3撃くらいを普通にかわし、おっさんの肩を掴み、足払いをした。もちろんすっ転ぶ。
「ぬおっ! …まだだぁ!」
再び立ち上がってきたおっさん。
おお、俺の間合い的に一本背負いにちょうどいい。
というわけで。
「ぐはぁぁぁ! ……うっ」
「気絶しおった……。か、かったのはショーじゃ!」
気持ちいいくらい綺麗に決まり、おっさんは伸びてしまった。俺が勝ったぜ。ふふふ、この世界で喧嘩するの久々だからな。なまってたし丁度いい運動になったかもな。
「わふぅぅぅ!! すげぇぇぇ!」
「結局、魔法も武器も使わずに投げただけで倒しちまった!」
「わふ、あんた、男の中の男だぜ!」
「かっこいいっ……ね、かっこいいよね!」
「うんうん!」
男どもの感嘆はともかく、女子にキャーキャー言われるのは悪くねーな。へへへ。
ところでリルは……もう目がとろとろになってやがる。
実はあいつが一番、試合観戦が好きなんじゃないか?
狼族の中で。




