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第七百五十三話 今の村長 (翔)

「一通り話終わったよ」

「そうか」



 俺はしんみりとした表情をしているリルを抱きしめた。

 リルは無言で抱きしめ返してくる。



「……すまね、二人とも……お?」

「あっ……」

「あー、邪魔しちまったか?」

「い、いえ、ちょっと慰めてただけなので」


 

 ラブラブしているところを見られちまった。気をつかわれても困るし、とっさに本当のことを言ったぜ。 

 リルは俺から離れ、前村長の方を向いた。



「わふ、おじさん。…二人はどうだって?」

「それがよ、今外出中らしい。運が悪いな……戻ってくるまでこの村で待機しててくれ」

「わかったよ!」



 そういうわけで俺たちは再び前村長の家にあげられた。テーブル越しに俺らの目の前に座る。何か話したそうだと察したリルは、声をかけた。



「おじさん、何か言いたそうだね?」

「わふん、わかるのか。……実は今の村長を決めたのは、前に奴隷狩りがあったときに……おっと、奴隷狩りはこのご時世、あれで最後だろうが、そんときにあいつらの秘策とやらで誰も連れてかれなかったからその功績で選んだんだが」

「わふわふ」

「それって、つまり村から死んだと思われていたリルを囮に使ったってことだよな? ……どうだった、奴隷は辛かったか」



 リルはしばらく考えてからそれに答えた。



「ううん、あの夫婦と過ごすより数倍は楽な生活だったよ。それに、奴隷調教場では……割と優しくしてもらったしね」


 

 奴隷として扱われるようになってからの方がいい暮らしをした、という内容のリルの言葉をきき、前村長はまた顔をしかめる。リルはそれを気にすることなく話し続けた。



「あと奴隷商の方針だと思うけど、純潔で無垢な方が売れるって算段だったみたいで、身体の方は何もされなかったんだ。……まあ、そうする前に身体の傷とそれによる心的症状が酷すぎて、不良品扱いだったけど」

「不良品って……」

「おじさんは私ぐらいの年齢の娘の不良品がどうなるか知ってる?」



 前村長は黙って頷いた。やはり獣族の長とかは奴隷については詳しいのだろうか。自分の村の人間が連れて行かれないように気をつけなきゃいけねーし、当たり前か。



「それで……どうした?」

「それからはさっき行った通りさ! 運良くショーに引き取られて今に至るんだ」

「なるほどな」



 ちなみに、リルを暴力的虐待していた奴らが性的虐待をすることは、狼族の習性上あり得ないと聞いている。

 この人もそのことに関しては心配してねーみてぇだ。

 

 もっとも、純潔を重んじるとかじゃなくて、一度伴侶となった相手を裏切らないっていう習性だがな。

 つまりリルも俺から浮気することはないってことだ。

 もしリルの引き取り手が普通に人だったら……うん、考えないようにしよう。

 リルの相手が俺になれたのは、だいぶ奇跡に近いな。



「……そうだ、あいつらが戻ってくるまでこの村の観光でもするか? ははは、SSSランカーだってことを隠しながら戦いの手合わせを願えば、男は必ず受けてくれると思うぜ!」

「わふん、ショーがこの戦闘民族である私たちの中で、憧れの目で見られてるところを見てみたくあるよ!」

「まだ人族に不信感持ってるやつ多いからな。ぶっちゃけぶらぶらと村を歩いてるだけで喧嘩を売られると思うが」



 なんだそれ、めちゃくちゃ物騒だな。

 こんな話を前から聞いてて、なおかつ俺の実力がSランク程度しかなかったら、まずこの村にくること自体断ってたぞ。



「そんなことより、……今この村で一番強いのは俺の孫だ。実力はSSランク。退屈はさせないと思うぜ? ああ、無論殺さないように手加減してくれよ」

「もう戦う前提なんすか」

「ああ、本当は私も手合わせしたかったが、流石にSSSランカーは無理だ、無理。現役時代でも無理だ。ははははははは!」



 と、いうわけで俺とリルはこの村を観光することになった。とりあえず初っ端から敵対され無視されることがないように、リルは俺について回るらしい。それは前村長の提案だ。


 

「武器屋や鍛冶屋が多いな……。おお、専用の冒険者ギルドまであるのか!」

「戦闘タイプの獣人の村には大体あるよ。魔物被害はどこでもいっしょ、対策できる人がいるなら任せるに限るのさ」



 うーん、それにしてもリルに腕に抱きつかれながら歩いてはいるが、それについて逆に睨まれてる気がする。

 なんでだろう。まさか、俺がリルをさらっていくまっ只中に見えるんだろうか。



「お兄さん、そのお姉さんどうする気?」

「ち、ちょっと!」



 ちょっとひらけていて人がそれなりにいる場所で、子供が闘志溢れる眼をこちらに向け、そう聞いてきた。親は慌てて子供を庇うように駆けつけてくる。

 同じ目をしている。



「あーっとな、俺はこいつの里帰りに付き合ってるんだよ」

「どういう関係なの?」

「彼氏と彼女だぜ!」



 俺はそう言った。それと一緒にリルが二人に微笑みかける。その様子を見て、どうやら安心してもらえたみたいだ。



「そうなんだ! 結婚してるの? 子供できる?」

「コラ……ご、ごめんなさいね」

「いえいえ、構いませんよ。結婚はまだできない理由があるが、いつかする。子供もな」

「そっかー、人族のお兄さん、その子を大切にしなかったら許さないからね! 大切などーほーだから!」

「すいません、ご迷惑おかけして。でも、私からも…どうか同胞を大切にしてやってください」



 親子はそそくさとその場を去っていった。

 なんだか周りからの目が緩んだ気がする。リルは満足そうにニコニコしていた。

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