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第七百五十一話 過去の告白 (翔)

「お邪魔します」

「わふ、お邪魔します…」

「そこの席についてなさい」



 こうしてみると、想像以上にごつい爺さんだ。きっと90歳をすぎても元気に運動できるだろう。そんな感じがする。まあ、今がいくつか知らねーけど。

 しばらくして言っていた通りにココアを出してくれた。寒かったからな……いや、助かるぜ。



「ありがとうございます」

「わふむ。で、客人たち。まずはこの村によく来てくれた。いや、君に関してはお帰りなさい、が正しいか」

「わふん」



 それを聞いたリルは少し照れくさそうにする。

 爺さんは話を続けた。



「で、君たちを家に招いたのは他でもない。質問をするためだ。君がこの村に帰ってきた理由は……フエン夫妻の墓参りだったな」

「はい」

「フエン夫妻は12年前に亡くなった。君は二人とどういう関係なんだ? 君に私は見覚えが一切ないんだ、教えてくれ。真名とともに」



 リルは目を閉じ、深呼吸をした。

 深く爺さんの目を見据える。告白してくるときもこんな表情だったな、確か。

 いや、あの時は顔が赤くなって恥ずかしそうだったか。



「……私はリル・フエン。二人は両親です」

「リル・フエンは魔物に食われて死んだはずだ。11年前に」

「村長は……」

「今は村長じゃない。今の村長は死んだリル・フエンを引き取っていたアングルだ」



 その名前を聞くと、リルの表情が激しく変わった。怒っている……というより、悲しそうだ。

 ここまで悲しそうな表情をしたリルを、俺は今までに見たことがない。



「そ、それじゃあ前村長は、そのリル・フエンの死体を直接見たの?」

「いいや、ただ、アングル夫妻はリルの耳と尻尾しか取り戻せなかったと嘆いていたし、その耳と尻尾は見た。証拠はそれだけで十分だ。……君は耳と尻尾もあるだろう?」

「それは……彼が、治してくれたから……」

「まさか。伝説級のポーションを使ったとでも?」



 ここは……そうだ、ポーションの実物を見せた方が早いだろう。俺はマジックバックからレジェンドポーションを取り出し、机の上に置いた。



「なんと……本物かね、それは。しかし私は鑑定ができん」

「ダンジョンで大量入手したんです。偽物だと思うなら、飲んで見ていただいて結構です」

「……本当にいいのか? 本物だったとして、金は払えないぞ」

「構いません」

「……そうか」



 前村長はいきなり立ち上がると、懐から一本のナイフを取り出した。そしてそれを自分の左小指にあてがうと、勢いよく切り落としてしまった。

 なかなかグロテスクだが……。



「ぐっ……。じゃあ、いただこう」



 レジェンドポーションは一気に飲み干される。その途端に、彼の顔にあった古傷がなくなり、切り落とした小指も生えてきた。

 ……何度見ても、体が再生するところを見るのは慣れないな。



「間違いなく本物か。これは認めるしかないな。……リル、よく帰ってきたね」

「……っ。おじさん!」



 リルは前村長に抱きついた。

 それはがっしりと受け止められる。



「ははは、もうおじさんなんて歳じゃないさ。いや、そもそも君が生まれた時から年齢はかなり食ってんだけどな。君はなぜか、おじさんと私を呼んでくれていたな」

「だって、見た目が若かったから……!」

「そうかそうか」



 前村長はリルの背中をポンポン、と二回叩くと、自分から離れさせた。リルも彼も、元の席に座る。



「何があったか話してくれないか? 全部、君が死んだと言われてきた日から、全部。……アングル夫妻に何をされた?」

「何かされたってわかるのかい?」

「わふん。長いこと村長つーか、管理職やってりゃな、人の表情一つで何考えてるかお見通しよ。アングルの名前を出した時、リルの表情は哀しみと憎しみにあふれていた」

「……わふふ、じゃあ話すよ。とーっても長くなるけど、良いかい?」

「構わん、話せ」



 リルはポツリ、ポツリと話し始めた。

 リルは頭がいい。その良さは先天的なものだ、と、先生だったか誰かは詳しく忘れたが、そう言っていた。

 記憶力も半端じゃない。

 

 とにかく、自分が何をされてきたかを、事細かに全て話した。普通の人間なら忘れていることも全部覚えているようだ。 

 リルから本当の過去を教えてもらうのはこれで2回目だが、一日ごと全てを教えてもらうのは初めてだ。

 聞いてるだけで吐き気がする。前村長は表情を全く変えてないが、俺は自分の大切な人がそんな目に遭ってきていたなんて聞くだけで胸が張り裂けそうだ。


 声を震わせながら、時には泣きながら話すリルに、俺は手を握ったり抱きしめたりしてやる。

 俺が今できるのはそのくらいだから、いや、リルが俺と一緒にここに来たがった理由が、おそらく励まして欲しいからだろう。


 そうして、おおよそ5時間経った。 

 リルの話は俺のことに変わっていた。

 そこから、とても嬉しそうで幸せそうな感情を吐き続けている。


 俺は、リルを、幸せにできているようだ。

 このまま幸せにし続けてやるからな。

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