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第七百四十九話 リルの故郷 (翔)

「……入るか」

「わふん」

「私は……村に戻りましょうか」



 帰郷や挨拶だけでないという俺たちの気迫から何かを察してくれたのか、雪の村の村長はそれだけをいうと去っていってくれた。



「覚悟はできてるよ」

「頭巾、被ってなくて大丈夫なのか?」

「狼族の村だからね、獣耳を見せていた方が警戒は解かれやすくなるよ」



 そう、冷静にいうリルだが、抱きつかれている俺の腕はリルの心臓が脈打っているのがわかっている。

 俺はリルの頭をひと撫でし、前に進むことにした。


 木でできた壁のような柵に合わせて進んで行くと、3人の見張りが村の入り口に立っているのが見えた。

 それぞれが屈強な男というべき背格好をしているが、リルと同系統の色の髪の毛(灰色である点は同じだが、濃さなどが違う)、そして狼の耳。

 リル以外の狼族は初めて見たな。


 なるほど、男があれをつけてもかっこいいか、あるいは似合わないかだけで、リルの狼耳が可愛いのはリルが可愛いからなのか。 



「声かけるぞ」

「うん」



 リルは自分から腕から離れ、俺の前に立った。  

 そして一歩、また一歩と何かを噛みしめるように進んで行く。



「おい、止まれ」

「なんだ、下の村の人間か? いや違う、狼族か」

「同胞だな。ここの出身の狼族の髪の色だ」



 リルが頭巾を外した理由、言っていた通りだな。

 つーか、俺にとっては狼族なんてさっきまでリルしか知らなかったわけだが、場所とかによって髪とかって決まってるんだな。

 リルたちが白狼なら、黒とかもどこかにいるってことか。



「わふ、あの……」

「わふ? なんだよ、この村の人間だろ? 早く入ればいいじゃん」

「ていうかさ、この娘すごく可愛くない? ここまで可愛い娘、この村にいたっけ? わふ、そういう系統の称号持ってるよね、絶対」

「たしかに人数は少ないが、村長じゃないし全員把握してるわけじゃないからな……居たんじゃないの?」

「いやいや、さすがに居たら目立ってるでしょ」



 リルが話しかけるも、同胞の前だと思ってすっかり話し込んでしまっている。一応怪しがれよな、外から来たんだからよ。

 それに、「わふ」ってのはリルだけの口癖じゃなかったんだな。これもリルだから可愛いのか……。



「えっと、あの……」

「あれ、君まだ居たの? なんで通らないんだ?」

「わふん! 俺らの中の誰かに興味あるんじゃね?」

「マジ!? ね、ね、なら俺さ、この間一人でAランクの魔物倒したんだよねー、すごくない? だから俺と……」

「たしかにお前は強い方だけどさ……筋肉の付き具合なら俺じゃないの? 鎧着てるからわかりにくいけど、筋骨隆々のナイスバディなんだぜ? 子狼ちゃん」



 まずい、リルがナンパされている。

 それに緊張やらでやっぱりうまく話せないみてーだな。ここは俺が助太刀しなきゃいけねー。



「すいません」

「わふ、何奴!?」

「こいつさっき居たかッ」

「この子とずっと一緒に居たんですがね……」

「ふ、ふん。それより要件はなんだ!」



 武器を構え直し、3人は凄まじい剣幕で俺ら……いや、俺だけに迫ってきている。 

 そこでリルが口を開いた。



「わ、私! その……戻ってきたんだよ」

「戻ってきた? 村に?」

「ずっとどこかに行ってたってことか……。おいそれってつまり、奴隷として連れてかれた奴が戻ってきたってことじゃないのか!?」

「そうだ、それだ! でもここ二十年は一人も連れていかれてないんじゃ……」

「1歳の時に連れていかれて、戻ってきたなんてこともあり得るだろ! ほら、奴隷が撤廃されつつあるって噂だし!」

「なるほど、じゃあその男は持ち主だった人族かもしれん」



 言ってることの4分の1くらい当たってるからすごいな。

 見張りのその3人は俺に向けていた武器を一旦降ろしてくれた。



「ま、話を聞いてからだな。……いきなり武器を向けてすまなかった。人族が来た時は基本的に奴隷として我々を連れて行こうとしている輩だと教えられているのでな」

「いや、それなら仕方ないですよ」

「それで、実際のところはどうなんだ? 二人は何をしに来た。戻って来たとはどういうことだ?」



 そう聞かれ、リルは深呼吸を一つしてから答え始める。



「……私はお墓詣りと近況報告に来たんだ。もともと、この村の出身なんだよ」

「お墓詣りか……俺がその対象が誰か前村長に聞いてこよう。亡くなっている同胞の名前はなんという?」

「ヴォルフ・フエンとフローズ・フエンだよ」

「……わかった、二人はそのまま質問を頼む」



 見張りの一人は村の中に入って言った。残りの二人がさらに俺たちに質問を続けてくる。



「わーふ。で、君と……人族、お前の名前は?」

「リル・フエンだよ。こっちがショー・ヒノ」

「二人はどういう関係なんだ?」

「……わふ。付き合っている仲だよ」

「チッ……ああ、そういう間柄なのはわかった。で、俺たちは奴隷なのかそうじゃないのか聞きたいんだが」

「元奴隷だよ。ショーに開放してもらったんだ」

「ほー、なるほどね」



 一度話し始めると、緊張に慣れて来ているのか割とスイスイ説明できている。

 リルの説明で、俺の警戒が少し解かれたみたいだ。

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