第七百四十二話 アリムの初夜
「大丈夫……?」
「んあ……確かアリムの裸を見て…俺」
ミカミが目を覚ました。
もうビックリしちゃったよ本当に。人間ってあんなに鼻血を出すものなんだね。
「興奮しすぎだよぉ…」
「ごめんね。なんかアリムの身体を見た途端、禁忌に触れてるような気がしてさ。その次の瞬間にはもう……」
「禁忌ってなにさ」
「わかんないけど、なんかすごいの。よく翔は有夢の裸を見て耐えられるなーって、この身体になってからわかるんだけど、さすがのあいつでもアリムの裸は無理だと思う」
「まあ、ショーはなぜか強い耐性があるからねぇ……」
うーん、ボクってそんなに男性にとって毒なのだろうか。たしかに美花の裸を初めて見たときは何か凄い気持ちになったけど、それと同じなのかな。
「もはや男性ホルモンに視覚だけで直接訴えかける何かがあるとしか思えない」
「そ、そんなに? …じゃあ今日はもうやめて、普通の性別に戻って、そっちでする?」
「ううん、やり通すよ。アリムの裸も……うっ」
ミカミがまた鼻血を吹き出した。さっきと比べて軽いけどね。思い出しただけで……か。
怖い怖い。今までお仕事でヌードとかなくて良かったよ。
「はいこれ、鼻血を止めるというか、ある程度興奮を落ち着かせるお薬作ったから飲んでよ」
「ありがとう。……さ、改めて一緒にお風呂に入ろうか」
「う、うん……。あ、あの……お手柔らかにねっ?」
「それは約束できないかなー」
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「……うぅ……」
「どうだった?」
「なんか、すごい気分」
翌朝。
朝ごはんを食べて、何回かキスをしたらお互いに元の性別に戻った。痛みを感じていた身体は無くなったけど、なにか怠さというか、変な感覚だけが残ってる。
「私も初めてはそんな感じだったのよ」
「ほぇぇ…今まで優しくすれば良かったね……。これからはもう少し優しく……」
「そ、それは別に大丈夫。有夢になら、なにされても嬉しいから」
「そうなの」
頬を赤らめるミカが可愛い。やっぱミカはこうじゃなきゃ。俺って一人称の超イケメンも良かったけどね。
「でも、男の人すごいんだねっ。あんな感じだなんて…」
ニコニコしながらそう言ってる。まあ、ミカ自身のお願いはすごい満足してもらえたみたいで良かった。
……アリムも大好きな人と結ばれたってことで良いんだよね? うんうん。
「次も私が男の人でする?」
「えぇ!?」
「あはは、半分冗談よ。たまーにね、たまに」
たまにならいい…かな?
アリムの時はノリノリだった記憶あるけど、男に戻った瞬間の後悔の方がやばいからなぁ。
「それにしても、アリムの裸が異性にとってあんな毒だなんてね。私より魅力的ってことかな?」
「……俺以外の男の人に裸って見せたことある?」
「あるわけないじゃない! 私はあなた一筋で…」
「うーん、思ったんだけど、美花のも多分、他の男の人が見ちゃったらああなるよ」
「ほんと? じゃあなんで有夢は鼻血出さないの?」
「幼馴染だからじゃない?」
「なるほど」
実を言うと美花とお風呂はいったりすると、少し頭がクラクラするんだよね。たぶん、それが今回のアレと同じなんだと思う。
「じゃあなんでミカミは……」
「ミカミの場合はほら、幼馴染ではあるけど男として俺の裸を見るのは初めてじゃない。そのせいだと思うよ」
「ははーん、なるほどね」
まあ、そうとしか説明できないんだけど。
「ともかく俺もミカもお仕事だとはいえ脱がない方がいいって事だよ。まあそんな依頼来ても断るけどねっ」
「うん! ……あ、そうだ有夢」
「ん?」
「ハグして?」
「いいけど」
俺はミカを抱きしめた。身長は10cmくらいしか変わらない。いい匂いがする。
胸も柔らかいし、髪も長くて綺麗だ。
「アリムに甘えてもらって、好きにするのも良かったけど……私はやっぱり有夢に甘えて、好きにされる方が好きだなー」
「俺も。受けに回るよりこっちの方がいいよ」
男のまま過ごすとか言い始めたらどうしようかと思った。
一時期、ミカがいるのにもかかわらず自宅でもアリムのままでいることも多かったから、そんなこと言い出されたら断れない。
やっぱり女の子のミカが一番なんだよ。
「ねぇ、有夢ぅ……」
「ん?」
「えへへ、その……今日はさ、元の性別のままで、しようよ」
「仕方ないなー」
「ありがとーっ」
ミカはさらに甘えてくるように頭を擦り付けてきた。ついでに頭も撫でてあげる。
幸せそうな顔が可愛い。昨日の俺もこんな顔をしてたのかな。まあ満ち足りた幸せがあったのは本当だしなぁ。
「ねえ、翔やリルちゃんにも男女変換渡してみる?」
「……なんか、体型が二人とも逆転しそうだよね。でもショーの目の前で犬っぽい可愛さのリルちゃんが、ガチムチな男になるとトラウマになりそうだしやめとこうよ」
「……そ、それもそうね。リルちゃんは女の子だからいいのよね!」
そうそう、性別なんて簡単に変えるものじゃないのさ。




